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2026.09.20

選手情報

USTA育成部門シニアディレクター大地智氏が語る、全米テニスの強化戦略と車いすテニス普及の課題

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車いすテニスジュニア強化の現在地とオーランド拠点の役割


USTA(全米テニス協会)で選手育成部門のアスレチックデベロップメント・シニアディレクターを務める大地智(おおち・さとし)氏。健常者のみならず車いすテニスジュニアの強化にも携わり、近年大きな成果を上げているアメリカテニス界のフィジカル面の土台を支えている。広大な国土と多様な人材を抱えるアメリカにおいて、どのような思想で選手を育成し、世界のトップへ引き上げているのか。また、車いすテニスにおける強化の現在地や課題、さらにはトップ選手に共通する資質とは何か。全米オープン現地にて、アメリカの育成システムとフィジカルトレーニングの最前線について話を聞いた。


――USTA(全米テニス協会)も車いすテニスの強化に力を入れているようですね。

(アメリカの車いすテニス女子ジュニアのヒールド選手の試合を観ながら)この選手は普通の学校に通っていて、休日に強化合宿があるとオーランドの「ナショナルキャンパス」(2017年オープンのトレーニング施設。テニスコート100面の巨大な施設)に来てもらって一緒に練習をしたり、トレーニングをしたりするのですが、車いすジュニアの強化部分はまだ初期段階です。

――昨年まで国枝さんがオーランドに滞在しアメリカの車いすテニスを引き上げよう、という動きもありました。

USTAの中でどうしても車いすテニスを盛り上げたいんですよね。国土も広く、車いすテニスはアメリカで始まったスポーツです(全米オープン期間中に車いすテニス50周年の記念式典が開催された)。日本とかヨーロッパ、特にオランダのように選手を強くしたいということで頑張っているんですけども、国枝さんに関してはたまたまタイミングが合ったんです。本当にUSTAにとってはベネフィットにしかならなかったと思います。

健常者もそうですが、オーランドにずっといてくれる子は(定期的に継続して練習やトレーニングができるので)いいんです。まだ拠点が移せない場合は、その子のホームコーチやサポートスタッフと密に連絡を取らなければいけないところで、この間も高校のストレングスコーチと話をし、コラボレーションして上手くやっていきましょう、ということで良い状態ではあります。

――大地さんご自身はUSTAの方から担当する選手が決められるのでしょうか。

「強化して欲しい」選手が年代ごとにいて、そのトレーニングを担当しています。選手に直接指導をしてプログラムを提供するというのがほとんどなのですが、提供する側の人数、スタッフが少ないので担当する選手数が多いです。オーランドに加えて、西海岸にはカーソンというUSTAの拠点があるのですが、そこに常時いてくれるっていう人がいて、そこを中心にフルサポートでコーチングもするし、プログラムも提供します。もちろん、自分たちの拠点を持っている子に関しては、サプリメント的な感じでスポットでトレーニングキャンプをしたり、トーナメントで遠征に行った時にチェックしたりという感じで提供しています。

いろいろ工夫して今いい状態に来ているので、続けていきたいなと思ってるんですけども難しいですね。どういうストラクチャーでやるのが正解かというのがなかなかないところなので、協会や各テニスクラブはそこをいろいろ自分たちが研究して頑張ってやってると思うんですよね。

国土の広さと人種の多さも考え方も全然違うと思いますが、その中でも共通しているところはあり、基本的なフィロソフィー的なところだけは曲げないということで、今まで来ているので成果が出てきたと思います。

――車いすテニスでは個人差もありますが、脚が使えないということで強化するポイントというのは体幹であったり、腕のパワーを引き上げる方にトレーニングをしていくのでしょうか。

基本的には健常者とあまり変わらないのですが、国枝さんに言わせると車いすテニスのアメリカの選手たちはまだそういうことを言うよりも、基本的なところ、全てのショットをちゃんと磨いた方がいいと言われてて、私もそれは同感なんですよ。健常者の人でもいくらフィジカル、コンディショニングが良くてもショットが入らなければ話にならない。

車いすテニスの場合は、一人一人その障害の度合いが違うので、健常者と同じ上半身の使えるところは鍛えて怪我をしないような身体にし、パフォーマンスを最大限に引き出せるようなトレーニングをするのはもちろんのことです。あとは使える身体機能の全てをなるべく鍛えられるだけ鍛えてあげるんです。意外かもしれませんが車いすテニス選手は案外下半身使ってるんですよ。

その障害の度合いが軽い人や体幹が効く人というのはやっぱり強い。打つボールが強いことやボールへの入り方や追いつき方が違うんです。我々も彼らの障害のことをまず頭に入れ、動くところは最大限に動かして、鍛えられるだけ鍛えてパフォーマンス向上につなげようとは思ってますよね。

――今後、アメリカ勢が車いすでもトップに行ける要素はありますか。

もちろんです!環境も資金もありますしね。私はUSTA側の人間ですから、そう思うのは当然なんですけど、アメリカのスポーツ、アメリカのテニスが強くないと面白くないと思う。だから「健常者」と「車いす」プロもジュニアも各部門と年代、全てうちで取れるようにしたいってというのはやっぱり目標です。健常者(プロ)とジュニアに関してはいい感じなんですけど、やっぱり車いすテニスが少し遅れている感じがします。

――車いすテニスが出遅れている部分をどう分析していらっしゃいますか。

環境、コートはあるんですけども、車いすテニスを指導できる人が普及していない点があります。そこで(USTAは)コーチングデベロップ的なことも力を入れてますし、車いすテニスをやりたい子はいっぱいいるんだと思うんです。でも、結局チームスポーツ(バスケットボールなど)に流れていたりすることもある。

始められる環境とジュニアトーナメントの構成や選手としてやっていける道しるべみたいなものを作っていくことも大切です。大学側も「車いすテニス」とかを取り入れている大学も増えてきているので、そこを基本として「またやってみたいな」と思ってくれる人も増えてきていると思います。

アメリカは、パラリンピックとか車いすテニスなどの障がい者スポーツに対するメディアもやっぱりヨーロッパとか日本とかに比べるとちょっと弱い。プロスポーツになったらプロスポーツなりのエンターテインメント性がなければなりません。アメリカでも国枝さんや小田選手みたいなスーパースターが出てきたら人気が出ると思うんです。そこまでアメリカの車いすテニスのレベルを持っていくにはもうちょっと時間がかかりそうです。

――健常のジュニアの部では、将来が期待されるアメリカのジャック・ケネディー選手が出場していますが(身長は170センチ)フィジカルが強そうです。

彼の場合は身体も小さくて、フィジカルもこれから。18歳でこれから大学生になって身体がもっとできてくると思うんですけど、残念ながら身長は多分大きくならないと思うので、これからどうやって克服してプロでやっていくかということですね。

周りのレベルが高くなってくると身体への負担も多くなってくるんです。そこをどういう風に調整して怪我のないような身体作りをしてやっていくか。今のところ順調ですけどね。彼のプレースタイルは、日本人にも参考になるのかもしれないですね。アルゼンチンのシュワルツマンと同じぐらいの身長だからできないことはないんです。

アメリカで言えばマイケル・ラッセル(元世界ランク60位/現世界ランク10位のテイラー・フリッツのコーチ)もそんなに大きくなかった(身長173センチ)ですが、その代わりフィジカルは完璧ですよね。ジャック(ケネディー選手)はその要素は持っていると思うので、あとはテニスがどれだけ成長していくかというところだと思います。

――ジュニアの頃からプロを見据えていくことができるのもすごいことだと思います。

ゆくゆくはプロでやりたい、ツアーでやりたいという意識は皆さん高いと思います。ただ、そんなに簡単ではないということをなかなか理解できない。ジュニアまではすごく慎重にやってきて、プロへのトランジションで急にレベルが上がります。勝てなくなっちゃったりすると、そこでちょっと挫折する子も出てきます。

――今まで携わってきた選手の中でトップに行く共通点などがあれば教えてください。

アメリカ人に限らずですけど、みんなこのレベルになると、体力や運動能力とか全てが平均以上で、それに1つか 2つ秀でています。それが例えばフィジカルだったり、すごいパワーがあったり、スピードがあったりする。何でもいいんですけど、ユニークな要素がすごい利いていて、普通じゃないところがあります。

性格も含め負けず嫌いで、ジュニアの頃から彼らを見ていると「あれ?これちょっと違うな」と思うんです。私はテニスのコーチではないので、プレー自体はあまり見ないのですが、フィジカルのことやコンディショニングのトレーニングの中で見ていると、一癖も二癖もあるような子だったり、テニスじゃなくても休憩時間に卓球やれば卓球でも熱くなったり、ゲームやればゲームも熱くなっています。とことん突き詰めるぐらいこだわりがあるんです。そういう選手はやっぱり今成功していて、トップにいく選手にはその辺の共通点があります。

――帯同選手のケアでお忙しいところお話をいただき、ありがとうございました。

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