錦織圭の武器「ULTRA TOUR 95CV」がニューコスメで登場!新型コロナウイルスのための外出禁止令が明けたフロリダで、練習に励んでいることが報道された錦織 圭。その手に握られていたラケットをチェックしただろうか。実はニューコスメになっているのだ。
それは先日発売となり、特筆すべきパワー、フィーリングで話題となっている新ULTRAシリーズと同じコスメ。つまり2020年バージョンというわけだ。近年、錦織はシーズンの中でコスメ違いを手に戦ってきている。昨年は自らコスメデザインに参画したことも記憶に新しい。そんな錦織にとって、今回の新コスメは心機一転で練習に臨むうえでいいタイミングだったと言えるだろう。
「ULTRA TOUR 95CV」については、すでにご存じの方も多いはず。フェイス面積95平方インチ、平均バランス32.5cmで、フレームはレクタングル形状。そこに、インパクト時につぶれることで、スイートエリアの拡大、パワーUPを発揮する「クラッシュゾーン」を搭載したモデルだ。錦織が世界で勝つためにたどり着いた答えと言えるラケットである。
今回のウイルソン・ウェブ・マガジンでは、新コスメの記念ということで、錦織とウイルソンの歩みを振り返っていきたい。
錦織とウイルソンの関係は2001年からスタートした
<HYPER HAMMER 6.3 95(2001/11歳)><HYPER HAMMER 5.2 95(2002/12歳)> 錦織 圭とウイルソンの関係は2001年からスタートする。おもしろいのは、ジュニア時代から錦織圭がラケットに求めていたのは、“ボールにパワーを与えやすいラケット”だということ。そのために、選択したのが「HYPER HAMMER 6.3 95」だった。ウイルソンには、競技レベルの選手には95平方インチこそが最適だという考え方がある。これにより、スイング時の空気抵抗を抑え、スイングスピードを上げて、ボールコントロールを可能にするわけだ。そういう意味では、錦織の選択は間違っていなかったと言えるだろう。事実、錦織は11歳にして、全国選抜ジュニア、全国小学生、全日本ジュニアの三冠という偉業を達成している。
また、その後、人生の転機とも言える修造チャレンジに参加した時には、「HYPER HAMMER 5.2 95」を手にしていることもチェックポイントだ。
<H TOUR 95(2003〜2004/13-14歳)>錦織は、盛田正明テニスファンドの支援を受けて、2003年からアメリカ・IMGテニスアカデミーで武者修行を始める。世界で活躍するための第一歩を踏み出したわけだ。その時、手にしていたのは、「H TOUR 95」だった。
フレームの内側に、カーボンファイバー繊維の補強材を格子状に張り巡らせる「アイソグリッド」テクノロジーが採用。パワーとコントロール性を高めたラケットである。これまで数多くのラケットを手にしてきた錦織にとって、「一番印象に残っている」一本だという。
<N TOUR 95(2005/15歳)>錦織が次に手にしたのは「N TOUR 95」である。フレーム強度と安定性を高めるため、カーボン繊維の間にナノレベルの粒子、シリコン・オキサイドを配置するnCodeを採用している。
しかし、同モデルを使用した錦織のラケットには多量の鉛が張り付けられていた。これは、海外選手の強打に打ち負けないため。まだ完全に出来上がっていない身体への負担を考えると、危険が伴うものだった。そこで、ウイルソンの道場氏は、トップヘビーにするチューンナップをシカゴにある本社ラボに委託。最終調整を行うようになった。
体に負担をかけないまま、海外選手のボールに対抗するパワーを手に入れた錦織は、グランドスラムジュニア3大会に出場。ウィンブルドンジュニアのダブルスで初勝利を挙げ、USオープンジュニアでは予選で敗れたもののラッキールーザーで本戦入り。見事、ベスト16までコマを進めた。
<N TOUR TWO 95(2006〜2007/16-17歳)>翌2006年は、「N TOUR TWO 95」でプレーした。フレームにナノ・フォームテクノロジーを採用し、ストリングホールにはダブルホールテクノロジーを搭載したモデルだ。さらに、このラケットには、錦織の要望によりグリップ部を長くするチューンナップが施されている。
この年、錦織は全豪オープンジュニアでシングルスベスト8、ダブルスベスト4と好成績を残す。そして全仏オープンジュニアでもシングルスベスト8、ダブルス優勝。日本男子初となるグランドスラムジュニアのトロフィーを掲げた。
また、錦織は同年からフューチャーズ、チャレンジャー大会にも挑戦。同年3月の京都チャレンジャーでデビューすると、10月のフューチャーズ(メキシコ/1万ドル)で優勝。その後もプロ大会を転戦し、翌年7月には世界ランキング394位で挑んだ「ファーマーズ・クラシック」(アメリカ・ロサンゼルス/ATP250)で予選を勝ち抜き、ツアーデビューを果たしている。さらに、翌週行われた「インディアナポリス選手権」(アメリカ・インディアナポリス/ATP250)では、トップ100選手を撃破し、ベスト8に進出した。
そして、2007年10月、17歳9ヵ月にしてプロ転向を宣言する。
<K TOUR 95(2008〜2009/18-19歳)>プロ転向後、手にしたのが「K TOUR 95」だ。
「デルレイビーチ国際選手権」(アメリカ・デルレイビーチ/ATP250)では、準決勝でサム・クエリー(アメリカ)と対戦し、タイブレークの末に勝利。さらに決勝では、1セットダウンからジェームス・ブレーク(アメリカ)に逆転勝ちを収めてツアー初優勝を飾った。これは松岡氏以来となる日本男子史上2人目となる快挙である。
同年4月にトップ100を突破した錦織は、6月に当時世界ランキング2位のラファエル・ナダル(スペイン)と初対戦。フルセットの末、敗れたものの、才能あふれる18歳の台頭を世界中のテニスファンは予感したに違いない。
そして、USオープンでは、3回戦で当時世界ランキング4位のダビド・フェレール(スペイン)を3時間34分の激闘の末、6-4、6-4、3-6、2-6、7-5で破りベスト16入りを果たした。
この年、世界ランキングを286位から63位に大きくジャンプアップさせた錦織は、ATPワールドツアー最優秀新人賞を受賞している。
しかし好事魔多し。ここで、錦織に苦難が訪れる…。
2009年5月、右ヒジの疲労骨折が判明したのだ。これにより、錦織は約1年のツアー欠場を余儀なくされた。成長著しい錦織にとって、この1年のブランクは大きかったに違いない。
<TOUR BLX 95(2010/20歳)><TOUR BLX 95 ORANGE(2011/21歳)>その故障明け、錦織が1年ぶりの大会で使用したのが、「TOUR BLX 95」だった。素材には、玄武岩からなる繊維、バサルト・ファイバー*を使用。パワーだけでなく、衝撃吸収性に優れたラケットとなっている。ヒジのケガから復帰した錦織にとって、使用にあたり必要なテクノロジーだったということもあるだろう。
*=バサルト・ファイバー + カロファイト・ブラックにより生まれるパワー、コントロール、そして心地良いフィーリングを兼ね備えた新素材がBLX。バサルトとは火山の火口付近に現存する「玄武岩」のことで、バサルト・ファイバーとはその「玄武岩」を1500度の高熱で融解したファイバー。それは①衝撃・振動をスムーズにする。②遮音性が高い。③軽量で安定性が高いという特性を持つ。これをカロファイト・ブラック(ウイルソン独自のナノ・テクノロジー・カーボン)に融合させることで、高いパワーとコントロールと共に、心地良いフィーリングをも実現する素材。前年のケガが長引き、一時はランキングを失った錦織だが、公傷制度を使って出場した全仏オープンでノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ウィンブルドンでラファエル・ナダル(スペイン)と試合するという貴重な経験をしている。それも奏功したか、復帰1年でトップ100切りを果たした。
その後、2011年からは「TOUR BLX 95 ORANGE」を使用。全豪オープンでは、日本男子46年ぶりとなる3回戦進出やデビスカップ日本代表としても活躍。日本を27年ぶりとなるワールドグループ復帰へ導いた。さらに、10月の「上海マスターズ」(中国・上海/ATP1000)でベスト4に進出。松岡修造氏の持つ日本人最高ランキング46位を更新し、日本テニス界の記録を塗り替えた年となった。
ここまでの8本には共通点がある。
<289gの重量+34.0cmのバランスポイント+22mmのフレーム厚+95平方インチ>
ジュニア時代からプロ初期まで使用したこのハンマー・バランスを使うことで、体格を上回る相手に打ち勝つことができるのである。のちに“錦織スペック”とも言われるこのスペックは、日本の競技者層をターゲットとしており、「BURN 95J」「ULTRA TOUR 95JP CV」として復活。錦織も「これから世界に挑戦していくようなジュニアたちや力強く思い切り打ちたいプレーヤーに使ってもらいたい」と語っている。
<STeam PRO(2011〜2012/21-22歳)>錦織はシーズン中にもかかわらず新ラケット「STeam PRO」に変更を決断した。このラケット以降、錦織のラケット作りはアメリカ・シカゴの本社ラボにて一からオリジナルのものが作られることになるわけだが、シーズン途中のラケット変更はトッププロでも稀なことである。
「STeam PRO」の開発に際して、錦織は「打球時のフィーリングをもっとクリアに感じ取りたい」ということを要望。これに対し、ウイルソンは前述のバサルト・ファイバーの配合量を増やすことで対応。本来、年明けから使用する予定だったが、試打をした際に「すぐにでも使いたい」となり、シーズン後半からの使用になったわけだ。
実際、ラケット変更は奏功し、使用を開始した「スイス・インドアーズ・バーゼル」(スイス・バーゼル/ATP500)では、準決勝で当時世界ランキング1位のジョコビッチから逆転勝利を挙げている。
年が明けた2012年も同モデルでスタート。全豪オープンでそれまでのグランドスラム成績で自己最高となるベスト8進出したほか、10月の楽天ジャパンオープンでは、ツアー2勝目となる優勝を果たしている。
<STeam 95(2013〜2014/23-24歳)>実は、同大会の準々決勝でトーマス・ベルディッチ(チェコ)を破った際、錦織からある要望が出ていた。それは「もっとディフェンス力を上げたい。劣勢の状況でも深く、強く返して、相手にダメージを与えたい。ただ、打球感は変えないでほしい」というもの。
それに対して、ウイルソンが出した答えが、「STeam 95」である。最大の特徴は、パラレルドリルだ。通常、フレームに対して放射線状に空いているストリングホールを平行にすることで、ストリングの可動域が拡大。スイートエリアやパワーをアップできるテクノロジーである。錦織はこのモデルを気に入り、2013年7月より使用を開始。
2014年のUSオープンでは、このラケットを使用し、4回戦で6位のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、準々決勝で4位のスタン・ワウリンカ(スイス)、準決勝で1位のジョコビッチを撃破。日本人男子初となる、グランドスラム決勝へ進出した。
さらに、11月には世界のトップ8選手しか出場が許されない「ATPワールドツアー・ファイナルズ」に出場。ラウンドロビンではアンディ・マレー(イギリス)、フェレールを破り、ベスト4入りを果たしている。
<BURN 95(2015〜2016/25-26歳)>自己最高となる5位を記録した錦織だが、目指すは世界の頂。次なるラケットの開発は2014年5月から行われていた。
「マドリード・オープン」(スペイン・マドリード/ATP1000)で決勝に進出した錦織は、“クレーキング”ナダルと対戦。第1セットを6-2で奪い、第2セットも4-2とリードしていたが、ナダルに逆を突かれた際に、股関節を痛め途中棄権を強いられてしまった。それが教訓となり、錦織は“ショートポイント”の必要性を痛感。「打球のスピードをもっと上げたい」という要望がウイルソンに伝えられた。
それによって、生まれたのが「BURN 95」である。フレームの基本構造は、「STeam 95」を活かし、フェイス面の内側にハイ・パフォーマンス・カーボン・ファイバーを採用。パワーロスを軽減し、ウイルソンラボのマシンテストによると、球速が平均8%アップしたというから、驚きである。
新たな武器を手に入れた錦織は、2015年シーズンも大きな活躍を見せた。2月には、「メンフィス・オープン」(アメリカ・メンフィス/ATP250)で同一大会3連覇を果たすと、自己最高の4位を記録。「バルセロナ・オープン」(スペイン・バルセロナ/ATP500)でも連覇を成し遂げた。
年末には、2001年から育まれてきた信頼関係が形となる。ロジャー・フェデラー(スイス)に続いて、2人目となる「現役終身契約」を結ぶことになったのだ。錦織は、『今までもこれからもウイルソン以外は考えられません』と語り、絶大な信頼をウイルソンに寄せた。
翌2016年も、同モデルを手にした錦織は、8月のリオデジャネイロ五輪、準々決勝でガエル・モンフィス(フランス)と対戦。3本のマッチポイントを奪われながらも逆転で勝利。準決勝でマレーに敗れたが、3位決定戦でナダルをフルセットで勝利を挙げ、銅メダルを獲得。熊谷一弥さん以来96年ぶりとなる快挙を達成している。
<BURN 95 CV(2017〜2018/27〜28歳)>2017年から使用開始したのは、「BURN 95 CV」だ。この開発のきっかけとなったのが、『打っても疲れないラケット、できませんかね(笑)』という錦織のジョークから生まれたというからおもしろい。
発端は4年前にある。2013年、ウイルソンは新モデル開発のためのヒヤリングを錦織に実施。そこで要望として挙げたのが、「BURN 95」に反映された“スピード”である。さらに、錦織はもう一つリクエストを出していた。『ファイナルセットになってもパワーが落ちないラケットなんてないですよね?(笑)』と。
身長178cmの錦織にとって、海外の190cm超のトップ選手との戦いはただでさえハードなもの。ましてや試合が長引けば、それだけ体力が削られてしまう。7試合勝ち抜かなければ優勝できないグランドスラムが、いかに難しいことかがわかる。つまり、“疲れないラケット”それが実現できれば、錦織にとって夢のようなラケットになるのだ。そして、ウイルソンは、さまざまなテクノロジーを組み合わせ完成させた。「BURN 95 CV」である。
最新の研究で、衝撃や振動こそが筋肉疲労の原因であることが分かったウイルソンは、フレームにNASA公認の衝撃吸収性の高い新素材「カウンターベイル」を使用。従来のカーボンと比較し、約130%の衝撃を減衰させるという。これにより、筋肉の疲労が軽減されるのである。
この年、不運な故障もあったが、翌年には復活。ウィンブルドンベスト8やUSオープンベスト4入りを果たし、トップ10に返り咲いた。
<ULTRA TOUR 95CV(2019〜/29歳~)>2019年シーズンから錦織は新モデル「ULTRA TOUR 95CV」を使用する。
開発にあたり、錦織の要望は2つ。『バウンド後の伸びが欲しい』『ソフトなフィーリングも残したい』ということだった。
これを叶えるため、ウイルソンは12本の試作品を製作。錦織に試打テストをしてもらった結果、「現行モデル(BURN 95CV)のスペックがベスト」であることや、バウンド後の伸び、フィーリングが良かったクラッシュゾーン・テクノロジーを搭載したモデルを採用。
クラッシュゾーンは、フェイス部6時方向のグロメット内に搭載され、スイートエリアを拡大。95平方インチながら、98平方インチ相当のフェイスサイズを実現。さらに、ボールとの接触時間が長くなることで、錦織が求める柔らかいフィーリングを可能にした。
完成品を試打した錦織は『ボールの伸びだったり、コントロールのしやすさがあって、すごく伸びているように感じました』とコメント。
同モデルを使用したシーズン開幕戦「ブリスベン国際」(オーストラリア・ブリスベン/ATP250)で、3年ぶりとなるツアー優勝を成し遂げると、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドンでベスト8に進出した。
そして同年秋には、冒頭でもご紹介した「ULTRA TOUR 95CV KEI 2019 LIMITED EDITION」。こちらは、故郷・島根にある名所・出雲日御碕灯台<いずもひのみさきとうだい>をデザインしたものだった。
ツアー再開に向けて準備を進める錦織。
ニューデザインのラケットでどんなプレーを見せてくれるのか、とにかく早く試合を見てみたい。