全米オープン車いすテニスジュニア女子で単複2冠の快挙を果たした松岡星空
全豪オープンでの悔しい敗戦、全仏オープンでの課題を経て臨んだ全米オープン。車いすテニスジュニア女子の部で、16歳の松岡星空(NGK)が見事に単複優勝を果たした。勝負どころでの積極的なアタックや粘り強いプレーの裏には、彼女の強みを最大限に引き出しつつ、課題であるストレス耐性やサーブ強化に向き合ってきた育成のプロセスがあった。今回の快挙をどのように捉え、今後どのようなステップアップを見据えているのか。彼女を指導する貝吹健コーチに、今大会の振り返りと指導方針、そして将来への思いを聞いた。
――松岡選手がグランドスラム初優勝しました。第1セットは4ゲームを連取され劣勢になったところからの勝利です。貝吹コーチのご感想をお願いします。まず今年1月、前哨戦2大会を優勝し「この調子で!」と乗り込んだ全豪オープンでは、ルナ選手(直前の直接対決では2連勝していた)に敗れて準優勝という悔しい想いをしました。その後の全仏オープンではリベンジをと、いい準備をして臨んだつもりだったのですが、またもやルナ選手に敗れ準優勝し今回を迎えました。
ルナ選手が勝ち上がってくると予想し、彼女に勝ちたい!という中で、具体的に準備したことはサーブですね。急激にではありませんが、確実に質は上がってきています。
また、「ストレス耐性」です。長いラリーになった時に我慢して無理に慌てて打っていくのではなく、しっかりとラリーをしてからチャンスを作り出すということ。また0-40など相手が有利になったカウントの時に、今までだと結構あっさり落としていたのですが、粘り強く、どれくらいの可能性があるかわからないけれど挽回して逆転のチャンスを得るという、「しぶとさ」みたいな力がつけばと、シニアも含め多くの大会に出場してきました。
直前のヨーロッパ遠征では、松岡選手が勝てる大会は絶対勝ち切るという目標を達成。また、別の大会では強豪と言われるような選手たちとの対戦経験を積み、格上の選手に当たった時にも、競れるような取り組みができたと思います。特にこの1年で具体的に何かすごいショットを身につけたわけではないのですが、その辺りが少し成長できたかなと今大会を見て感じます。
――タイトな場面で前に出ていく積極性が際立っていました。貝吹コーチからの提案でしょうか。どちらかというと彼女発信で、理想は自分から打って攻撃していく、決めていく、仕掛けていくテニスです。それが形になるような手伝いを私ができればと思っています。松岡選手は腹筋下部から麻痺があるため、足やお尻の踏ん張りがきく選手と比べて、車いすを漕ぎ出す力や体勢を崩したところから打ち返す力は劣ります。ですから、プレースタイルとしては走り回ってラリーをするというより、どんどん攻めてショートポイントで勝負するんだ、長いラリーにしないプレーをやっていかないといけないんだと、小さい頃から伝えてはいます。とはいえ、今は彼女がこうしたい!ということを先に聞くようにしています。
コーチである私の苦悩としては、無理せず繋いで欲しい場面もあり、ここはあまりリスクを犯さずにと言いたくなることもあるのですが、そうなると彼女のやりたいテニスから遠ざかってしまうことですね。
――そうは言いながら、守りたいっていう本能がある中で、今回の松岡選手の攻めの姿勢は素晴らしかった。それが彼女の良さだと思っているので、少々強引に攻めたボールが入らなくて負けたとしても、つながなかったその選択が悪いというよりは、「ショットが入らないことが悪かった」と考えるようにして、その精度を上げていこう、と。攻めたいと思った時に、攻めるボールが入るようにしてあげたいなという思いで、強化に取り組んでいます。
――今後の活動について大人の大会にシフトして次の段階に向かう予定はありますか。あまり慌てないでほしいという思いが正直あります。低い年齢から上の世界に、小田凱人選手のようにどんどん進んで行くことはとても価値のあることだと思うのですが、今の年齢の中で獲るべきタイトルを獲るというか、今のステージでしっかり勝つことも大事にしてほしいという想いがあります。今回、全米を獲ることができたので話し合いは必要だと思うのですが、すぐにシニアの方にシフトしなくてもいい。まだ全豪も全仏も勝ってないので。そこを獲って真のジュニア世界1位になってからでも遅くない。そうなってから次のステージに行ってもいいのではと個人的には思っています。
――そういう意味でも、全米オープンの単複二冠は松岡選手にとって自信となりますね。そうですね。これを機にもっと強くなってもらいたいです。ジュニアといっても彼女はまだ16歳で、これまでは年上の子たちと試合をすることが多く、チャレンジャーというか、年下であるっていうことがちょっとだけ精神的に有利だったりするんですよね。今後は年下の選手も出てきて、追い上げられる側の立場になるので、それをしっかり跳ねのけて勝つような力をジュニアのうちにつけられれば、シニアに移行した後にも活きると思います。
もちろん、資金面においての問題はあり、(賞金がない)ジュニアは大会に出れば出るほど赤字になってしまう。現在はスポンサー企業様からのご支援をいただき、シニアとジュニアの両方に出場できていますが、当然、出たいところに無制限に出られるというわけでもないので、ご家族も含めてきちんと話し合っていかなければいけません。本人にはパラリンピックに出てメダルを取りたいっていう目標があるわけですから。
――皆さんも今後の松岡選手の活躍を期待しています。彼女自身、テニスを楽しむ姿勢を忘れていないのはありがたいですね。「楽しむ力」は彼女の才能だと思っています。これから先もそこは持ち続けてほしいですね。
――単複優勝おめでとうございます。選手の将来を見据えての指導方針などお話をありがとうございました。