――錦織圭選手について高田コーチが現在感じていることをお話しいただけますでしょうか。「最近までずっと日本で滞在していて、リハビリや練習など苦しんでいる姿や地道にやっている姿をずっと一緒に見ています。時間はかかっていますが、徐々にやれることが増えてきている感じが見えてきています。慎重にならざるを得ないところですが、どこかでそれを振り切れるような気がしています。基本的な練習をしているのですが、ボールの質の高さは現在のツアーレベルと比較してもやっぱりすごいなと思います。身体さえ、というのはもちろん一番でありますが、本人も辛いと思うし周りのサポートしているチームも苦しいと思います。まだまだモチベーションを持ってやっているので、我々もできる限りサポートしていきたいという想いがあります」――先に開催された慶應チャレンジャーや松山チャレンジャーなど日本における「テニス熱」についてどうお感じになられましたか。「観客は年々増えてきているように思います。ジャパンオープンで望月が頑張ったことや島袋、ダニエルも奮闘したことは大きくて、今年は試合を観戦される方が多かったですね。圭が出場しないことが決まった時にどうなるかと大会側も心配していたと思いますが、それでも多くの方々に観戦していただけました」「神戸チャレンジャーは例年、土日は観客でいっぱいになるのですが(3,000人規模の観客動員)今年は慎太郎の活躍で平日も同じようなことがありました。ジャパンオープンも日本人以外の観客もある中でテニス熱というのはあると思います」――錦織選手や大坂なおみ選手の活躍により「フィーバー」が起こった後に少し心配となるところではありましたが、日本男子の活躍により「テニス熱」が継続していく流れになっているように思います。「個人的にももう一度、圭には頑張って欲しいですね。やっぱりというか圭の存在は大きくて全然違うものを与えてくれます」――その違いというものは何でしょうか。「言わずもがな世界4位までいき、グランドスラムであれだけ活躍したことのある選手。フィジカルが万全であればコンスタントにグランドスラム8強入りし、全米オープン準優勝やリオ五輪銅メダリストというのは特別です。彼がテニス界のみならず日本のスポーツ界全体へ与える影響は大きい。あの身体で海外の大きな選手と戦って倒していく姿も日本人として親近感に似た感覚を覚え、勇気をもらえるところにもあると思います」――これまで多くの選手と携わって来られた高田コーチの「世界基準」のようなものがあれば教えてください。「選手それぞれのキャラクターがあり、その人が持っている“武器”をどう活かしていくか、ということを一番に考えています。西岡と綿貫とは全く違いますし、左利き同士で背丈も同じくらいの西岡と清水が似ているテニスをするかと言えばそれも全然違います。清水は清水の良さをどう生かししてどう伸ばしていくかというのが大事だと思っています。そこの能力を伸ばして、高めていきたいと思っています」――ポテンシャルを最大限に引き上げて生かそうとする中でアドバイスが出てくる。「去年から綿貫に帯同している中で『こういう部分ではトップとやり合えるものはある』、『これが全部出ればトップ10に勝つチャンスもあるよ』と伝えています。実際にトップ10~20にもいい試合ができて、8月にはオジェ・アリアシム(当時世界ランク12位)にも勝ちました。いい試合ができるということはそこまでのポテンシャルがあるということなので、このいい部分をさらに上げていき、課題となるところを詰めていく作業になります」「トップの人達より優れている部分もあるし、見えているところをいかにレベルアップさせるか、ポテンシャルを最大に高めていけるかということに尽きると思います」――新しい分野にトライしないといけないリスクに対して、それを進めることで調子を落としてしまったことなどはありますか?「新しい部分というより、その選手が持っている良い部分にフォーカスするようにしています。例えば前の試合で良いところが20%しか出ていないとしたら、それを30%にしていくというイメージですね」「これまでのことで言えば、2年前は綿貫のポジションが後ろでとにかくディフェンシブ。あれだけの攻撃力を持っていながら、その殻を破れないことがありました。それで勝ってきているので(綿貫本人は)変えたくないんですよね。リターンも下がって、安全に返すことで相手にプレッシャーをかけたいと考えるのもわかりますが、ベースラインの中に入って打つことによって相手にプレッシャーをかけていこう!とギャップを埋めることが大変でした」「攻撃的にプレーする能力を持っているということを綿貫本人も気がついているし、周りも気がついている。彼にダブルスをやらせてみるとリターンで絶対に下がらないんです。それをなぜシングルスで使わないのか?と問うのですが、『エラーが出てしまう』というリスクと前に入ってリターンができた場合でもそれが『甘いとその次でやられてしまう』というネガティブなところでリスクヘッジしている。ですが、1回成功してくると『あれっ?』って気づいてくる。それが彼にとっては新しいことかもしれないし、チャレンジするまで我々コーチが誘導し、彼が本当にいい!と思えるまでは少し時間がかかったかもしれないですね」昨年準優勝だった「横浜慶應チャレンジャー」で優勝した綿貫陽介をねぎらう高田充コーチ
「去年のチャレンジャーで綿貫が優勝2回、準優勝1回という成績を出しました。これで140位ぐらいまで上がりましたが、その時の1週目(慶應チャレンジャー)の決勝では(ポジションが)下がって結果が出なかった。試合が翌週も続いているおかげで、次も試す機会があり、それが課題克服に向けた取り組みとしては効果的だったように思います。練習でできても試合になるとできないとなると自信にならないということはあります。実戦で試し、結果が出てはじめて彼も『これでいける!』と感じたのだと思っています。そういう意味で失敗してもトライし続けて身につけたものは大きいと思います」――そういう意味で選手との信頼関係の構築は大事で、その立ち位置はコーチをしている方々の共通の悩みでもあると思います。高田さんにとって理想のコーチ像みたいな方はいらっしゃいますか?「選手との押し引きや経験もあるので距離感というところは大事にしています。私にとってこの人という理想はないのですが、杉山愛とツアーを回っていた頃は、お母様の杉山芙沙子さんがコーチをしていた時に、(お母様が)テニスプレーヤーではなかったのですが、明らかに違う視点から見ていた。我々が当たり前だと思うことをズバッと言ったりすることは、テニス経験者からは想像できないアドバイスであったりすることに刺激を受けました。そのほかにも私が大学時代にお世話になった堀内昌一さん(亜細亜大学総監督)はいろいろアイディアを出しますし、竹内映二さん(竹内庭球研究所)はナショナルチームに私が入った最初の数年間にご一緒させていただきましたが、当時の世界トップを見た中で日本人でもトップ100にいけると確信していました。植田実(デビスカップ、フェドカップ監督などを歴任)さんからは選手に伝える言葉などテニスに取り組む情熱を学びました。いろんなコーチからたくさんの刺激を受け、今に生かしています」――テニスに対するコーチ目線での面白さを表現できるとすれば何かお伝え願えますでしょうか。「(どの選手を見るか)タイミングもある中で、才能に溢れた選手たちを見させてもらっています。先ほどのお話と重なるようですが、その才能をどう開花させていくかというところに面白さがあります。日本のジュニアもそうですが、みんなタレントがある子が多いと感じていて、トップの子は世界でも活躍できる才能を持ち合わせていると思います。その中で「本気」でやっていける子が多くいて欲しいですね、15歳~18歳ぐらいまではテニスが生活の中心になるほどプレーする量も必要なことだと思います」――2024年日本男子の展望や目標があればお願い致します。「来年パリ五輪があります。ここに各国4人までは出場できるので最大数の4人を連れていきたいです。残り半年ぐらいの期間となりますが、出場枠をかけて日本代表も熾烈な競争があっても良いかと思います。もう一つ、今年は綿貫が100位以内に入りましたが、彼に続いて望月や島袋などもう1人入ることですね」――来年の活躍を楽しみにしております。ありがとうございました。