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2024.10.26

選手情報

ジュニア最後となった全米オープン車いすテニスで単複を制した髙室侑舞を指導する宇井啓コーチ「新たな時代の選手として活躍してくれる」

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女子車いすテニスでニューカマー!今年9大会でタイトル手にした髙室侑舞


フランス・パリの地で日本人選手が単複で決勝に進み、金メダルを獲得する姿に日本人は熱狂。感動の渦に包まれた。その裏で、アメリカ・ニューヨークの地で開催中だった全米オープンでも髙室侑舞(SBCメディカルグループ/ジュニア世界ランク2位)が車いすテニスジュニア女子単複優勝という快挙を成し遂げた。

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今年1月には小田凱人が優勝した車いすテニスジュニアマスターズ(フランス・タルブ)で準優勝。その後は大人の大会にも出場して、今季は9つのタイトルを獲得している。2028年のロサンゼルス・パラリンピックでの活躍も期待がかかる18歳を指導する宇井啓コーチに、彼女が秀でているポイント、指導法について聞いた。

――髙室侑舞(SBCメディカルグループ)選手との出会いを教えてください。

「去年の5月ぐらいからですね。きっかけは知り合いがコーチを探していて、チームを作ろうということで『時間的にどうなんだ』というお話をもらって、『じゃあ見れる範囲で』というところからのスタートです」

――「車いすテニス」と「健常者のテニス」どちらも見ていらっしゃる宇井コーチですが、どちらに軸足を置くか悩んでいるコーチもいるかと思います。

「難しいところですね。どちらに軸を置きたいかは、正直まだ私の中でも特にありません。どちらもやれる範囲でベストを尽くすというところです。それを当然、中途半端という思う方たちもいるとは思うのですが、それでいいと言ってくれているのであれば、自分ができる環境の中でベストを尽くしています。いずれどちらかに軸を移してやるということも可能性はあると思います」

――どちらの世界もコーチングスキルを知っている方は少ないように思います。そういう意味ではとても貴重な存在であり、どちらの見方、気持ちも理解されていると思います。

「どちらも見れることによってプラスな部分というのも当然あると思うので、軸を置いて”その世界だけ”というより両方のトップを見れるということも、視野は広く持てていると思います」

――宇井コーチご自身は「車いすテニス」の世界をどうご覧になっていますか。

「『学び』がたくさんあります。選手それぞれの病気や障がいが違いますし、その点で健常とは違います。しかし、テニス自体は健常者と特別変わるということはないとは思っていて、自分も車いすテニスからいつもいろんなことを学ばさせていただいています。こういう縁を持ちたくても、持てないものだと思うので、ましてはグランドスラムで決勝に行く選手を見れるというのは、自分のコーチとしての経験としても有難いことだと思っています」

――宇井コーチから見た髙室選手の良いところを教えてください。 

「球の質はピカイチですね。打つボールの厚さや綺麗なフォームからすごいボールを打っていると思う。ポテンシャルを持っていて、すごく魅力的なテニスはしていますね。あと、あまり今までの女子の車いすテニスではいないような球質のボールを打っているとも感じます。これからは精度を上げて、ジュニアを卒業しても新たな時代の選手として活躍してくれるのではないかというふうに感じています」

――練習で気をつけているところなど教えてください。

「先ほど話したショットの精度に関して、球は本当に良いのだけれど狙ったところにどれだけ確率良くコントロールできるかというところ。あとはどんなボールもしっかり追いかけ、ファイトして食らいつくという姿勢であったり、フィジカル的にもトレーナーさんがついているので、練習中に意識をしてやっていくところです。私は、ずっと車いすテニスをやっているわけではありませんし、どちらかと言えば少し健常者のテニス寄りの考え方でやっています。もちろんそれが良いこともあるだろうし、違うというところもあると思うので、それは本人と話をして『私はこういう考え方だけど』『それはちょっと車いすテニスとは違うんじゃないか?』という話をしていきます」

「小田凱人(東海理化)もそうだし、(車いすテニスのプレーが)時代はどんどん健常者のようになってきていると思う。フェデラーのSABRをやってみたり、ネットプレーをやったりとか。女子はまだまだそういうところはないですけれど、そういう時代になってきていると思うので、だからこそ何か良い影響を与えることができればと考えています」



――理想のテニスは、プレーヤー自身あるいは宇井コーチが考えるもののどちらが理想なのでしょうか。

「プレーヤーの理想ではなく、私の考える理想のイメージですね。先ほどお話ししたように”新しい時代のテニス”というか、もっとネットプレーやコートの中に入って時間を奪っていくということは、男子がやっているので女子ももっとできるのではないかというふうに思っています」

――先ほどもお聞きしたのですが、身ひとつで海外遠征に行くこともあるというのは驚きました。

「そうですね、飛行機に乗ることも健常者と違って荷物が多いのでタフですよね」

――練習や試合の時のコミュニケーションは、どういう感じで取られていますか。

「試合期間中にはそこまで細いことはなくて、どれだけ本人が落ち着いてプレーができるかというところにフォーカスする。あとは彼女自身、自分のことをよく分かっていて『バックのここら辺が少し苦手なんですよね』という話をしてくれて、『じゃあこういうふうにしようか』みたいな話をしています。

――健常者のジュニアをメインに活動されていた時「車いす」のオファーを引き受けることはすごい選択だったと思います。

「車いすテニスのコーチを頼まれて始めた時、修造キャンプやナショナルのサポートをしている時期ではなかったんです。最初の方は『車いす、分からないです』というところから始めました」

――「車いすテニス」をやりながらナショナルメンバーコーチとして招集されるのはすごいですね。

「自分が修造チャレンジの卒業生であることや、坂本怜や本田尚也らを故ボブ・ブレットさん(ボリス・ベッカーやゴラン・イバニセビッチ、マリン・チリッチなどを育てた名伯楽)とともに遠征に連れて行ったり、この6年ほど一緒に仕事をさせてもらいました。(松岡)修造さんや(岩本)功さん、櫻井(準人)コーチ、チームの考え方はかなり分かっている方だと思います。その考え方は、普段のアカデミーや車いすテニスにも継承していて、だからこそコーチとして呼んでいただいているのかなと思います」

――「継承しているもの」とは何でしょうか。

「『世界で勝つために』というところです。修造さんたちが、今まで20何年にもわたってジュニアを見てきて、いまでも変わらず選手たちに伝えてきているところだと思います。『ちょっとボールを落とすかどうか』、この”ちょっと”で世界で勝てるかどうか変わってくる」

――「車いすテニス」を目指すジュニアの方々へメッセージをお願いします。

「パラスポーツ、車いすテニスというのはきっかけが少なく、『どこでやったらいいか』『お金がかかるのか』とか突っかかりにくい競技だと思いますが、意外と探せばあると思うので『自分ならできる!』と思えればチャンスはやっぱりあると思います。『小田凱人、上地結衣みたいになりたい』『髙室、岡野莉央のようになりたい』とか思ってくれたらいいですね。できない、自分とは違うと思うのではなくて、車いす、健常でも『自分ならできる』と思ってできるかどうかだと思います」

――その中で髙室選手が全米オープンで単複優勝というのは、次に車いすテニスを始めたい人にとってはきっかけになるかもしれませんね。

「一昨年は準優勝(グランドスラムで初めて車いすテニスジュニアが全米オープンで開催)で、今回がジュニア最後なので優勝してもらいたかった。髙室はこれでジュニア卒業で、これからツアーに出てポイントを獲得していくことになります。色々とやらないといけないことはあります。総評としては、シングルスに関してはタフに頑張った。決勝の第1セットは相手がかなり良くて苦しい展開だったんですけど、何回も対戦しているところを見ているので、踏ん張っていればチャンスは来るというのは本人もわかっていたことだと思います。その中で第2セットをタフに頑張れて、最終セットも4-0から追い上げられて精神的にプレッシャーがある中でしっかりと勝ち切った。ここ最近準備をしてきた成果で、今回でかなり自信にはなったと思います。ダブルスに関しては、去年は2人とも別々のパートナーと組みましたが、今年は最後ということで同い年の岡野選手(東邦高)と出場して日本人ペアがグランドスラム優勝した。2028年のロサンゼルス・パラリンピックに向けて年齢的にもいい流れになったと思います」

――これからが楽しみな2人ですね!貴重なお話をありがとうございました。


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写真=本人提供