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2025.12.20

メーカーズボイス

「振動減衰システム」のパイオニア! ルネ・ラコステが生んだ【Tecnifibre『X-DAMP』 /GEAR SELECTION TENNIS EYE】

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振動減衰を目指す2つの構造システムを知る


まず最初に「振動と対処」についての基礎知識に少しだけお付き合い願いたい。人類は過去に大きな地震によって、致命的な災害を受けてきた。もっとも打撃なのは「建築物の崩壊」で、先人たちは「いかに頑丈な建物を作るか?」を考えたが、それよりも「いかに揺れを逃し、建物を崩壊させないか?」を追求するほうが合理的だという方向へ進んできた。

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人類が、建築物の振動を逃がす「振動減衰」という観念に辿り着いたのは、19世紀後半からのこと。その根本的概念は、大きく「免震構造」と「制振構造」の2つに分かれて発展した。

免震構造とは……
「揺れるもの」と「揺らしたくないもの」の間に「別の素材」を挟むことで、振動を絶縁する構造

制振(制震)構造とは……
「揺れに対して相反する」エネルギー利用や「構造の挙動特性」を利用して、揺れを相殺する構造

先に「19世紀になってから」と話したが、じつは日本の法隆寺五重の塔では、「心柱が構造物とタイミングをズラして揺れる」ことで地震のエネルギーを減衰する「制振効果」が用いられていたことがわかっている。なんと1400年も前の木造建築に、「制震構造」という知恵が宿っていたのだ。

テニスラケットの「振動」ってナニ?


いっぽう、ラケットの振動は、地震よりもはるかに複雑だ。フレームには4つの振動のしかたがあり、それにストリング面の振動も重なって、5つもの振動モードが重なり合い、干渉し合いながら手に伝わる。

フレームが木製だった時代は、素材自体が振動を伝えにくいために問題視されることはなかったが、フレーム素材に金属やカーボンなどが使われるようになると、インパクトによって起こる振動が、木製よりも手に伝わりやすくなり、テニスエルボーなどの原因にもなった。

しかし、テニスというスポーツにおいて「振動」は、インパクトの状態を把握するために必要なものであり、「害だ!」として、単純に葬ることはできない。もしもフレーム全体がゴムでできているラケットで打ったとしたら、振動は微小かもしれないが、どんな打球を放ったのか? 把握することができないだろう。

よく宣伝文句で「邪魔な振動」「雑味ある振動」「イヤな振動」など(筆者も便利に使ってきた言葉だが)、それが「科学的にどんな振動なのか?」を説明するのはむずかしい。ただ、イメージすることはできるので、経験としてそういうものはあると思う。

そんな「打球感の雑味」に対処すべく、過去から現在を通して、ラケットメーカーはさまざまな技術によって「イヤな振動除去」に立ち向かい、「クリアな打球感」を演出する。今日では「フレームのカーボン積層やグリップ内に振動減衰性の高い素材を組み込む」ことで「免震効果」を狙うものが多いが、筆者は「制振効果による対策」が復活したことに注目している。

「グリップで振動を減衰する」天才ラコステの発明


テニスラケットで最初に振動対策に立ち向かったのが、フランスのテニス四銃士の一人、ルネ・ラコステだ。彼はスチール製のフレームに発生する振動を抑えるために、2つの対策を講じた。

まず1963年、ストリング面の振動をダイレクトにフレームに伝えないため、フレームにワイヤーを巻き、そのワイヤーからストリング面を吊るすように支える画期的システムを考えた。これは、ある種の「免震構造」で、ストリングとフレームの間に「ワイヤー」という絶縁体を挟むことで、振動の伝播を抑えたわけだ。

そして翌1964年、ラコステはさらに進め、グリップに伝わってくる振動を緩和するため、グリップエンドから飛び出すようにダンパーを設置した。これは現代高層建築の制振構造における「カウンターダンパー」と同じ役目を果たし、それが揺れることで振動を逃すシステムを構築したのだ。

長い間、目を向けられてこなかった「制振構造による振動対策」だったが、ラコステグループのテクニファイバーが、このシステムを現代技術に落とし込み、2021年に復活させたのが【TF-X1】などに搭載される『X-DAMP』。

これに用いるダンパーは、それ自体に「重量」が必要となる。重いものが揺れることで、振動エネルギーを、そこで消費させるのが『X-DAMP』制振システムだ。このダンパーは、見かけ上は「揺れるもの」あっても、それが周囲と同じ比重のものでは「ただいっしょに揺れるだけ」であり、振動対策とはなり得ない。揺れるダンパーは、重くなくては意味がない。

【TF-X1】の『X-DAMP』は、それ自体に「21g」の重さがある。そもそもグリップが重いというだけでグリップの振動は抑制されるわけだが、それに加えて「21gが揺れる」ことで振動エネルギーが消費され、振動減衰効果として機能する……という、現代のテニスラケットでは唯一の「制振構造による振動減衰システム」だ(LACOSTE L23 シリーズにも搭載されている)。

ルネ・ラコステが発明した振動減衰システムは、60年もの時を経て、現代に蘇った。彼が生み出したのは「ワニのマークのポロシャツ」だけでなく、先進的なラケット科学の基礎であった。


◎LACOSTE patent
「フランス四銃士」と謳われた名プレイヤー ルネ・ラコステ氏は、自分のあだ名である「ワニ」をアイコンとしたブランド『ラコステ』を作り、半袖ポロシャツを世界的に広めたが、ラケット開発者としても才能を発揮した。自ブランドのスチール製ラケットに、免震構造・制振構造の両方で振動対策を講じた。とくにグリップエンドの「ダンパー」は、テクニファイバーのラケットに【X-DAMP】として復活搭載。制振構造による振動減衰システムは唯一無二の存在だ



◎TF-X1 X-DAMP
テクニファイバー【TF-X1】のグリップエンドに組み込まれる「X-DAMP」。黄色いパーツはステンレススチール製で「21g」の重さがあり、それを振動させるために、シリコーンを使ったエラストマーチャンバーで支える。「重いものが揺れるからこそ、振動エネルギーが消費される」システムだが、チャンバーと合わせて「33g」がグリップに加重されることでも、グリップの振動は抑制される

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文=松尾高司
1960年 生まれ。『月刊テニスジャーナル』で 26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。テニスアイテムを評価し記事などを書く、おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。

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