展示会場でひときわ輝いて見えた1本のラケット。
【ダイアデム】というシブ〜い存在感!
2026年6月4日、衝撃的な出会いを経験する。3カ月たって、ようやく「あのこと」を書く機会が巡ってきた。それは、【プリンス】や【ダイアデム】を展開する「グローブライド」の展示会場でのこと。メインブランドである【プリンス】の新製品説明を聞いてはいるが、心がそわそわしてしかたがない……会場奥にある、たった1本のラケットの前へ早く行きたくて落ち着かないのだ。
▶テニスクラシックオンラインストア(公式通販ショップ)のダイアデム「ELEVATE 98 V4」はこちらプリンスの新製品【ビースト】が大胆にフルモデルチェンジした詳細は、後に個人的な取材によって感じ入ったことだが、会場のいちばん奥にある、こぢんまり設営された【ダイアデム】のコーナーに、「オレがほしかったラケットって、これだよっ!」というラケットがあったからだ。
テニスラケット界では超新興勢力の【ダイアデム】は、エバン・シュプレヒトと、AJ・バートレットという、二人の元テニスプレーヤーによって、2015年、フロリダ州フォートローダーデールに創設されたブランド。プロプレーヤーであった彼らは、プロが使っているラケットに期待している性能を深く体感していたし、多くの選手たちの期待も理解していた。
だから彼らが最初に作ったラケットは、「世界でもっとも革新的で高品質、かつユニークなデザインとスタイルを打ち出した。テニス界に変革をもたらしたい!」という彼らの想いが詰まっているだけに、とてつもなく「プロ仕様」だった。プレーヤーたちが、市販モデルには満足できなくて悩んでいたのを解決するため、真っ正直に「選手仕様」を打ち出したため、「いやぁ〜、これしんどいな」というのが大方の見方で、日本での販売もなかなか伸びない。筆者も、「こりゃあ売れんぞ……」と、正直、思っていた。


しかし、「ブランドは成長する」。プレーヤーたちのため、中身がしっかりした「骨太の設計方針」は守りつつ、「それだけじゃ世間に受け容れられない」として、ラクで飛び系(とはいいものの、けっこうガツン系)の【ノバ】シリーズも展開し、【エレベート】も快適性を増していった。
そして【ダイアデム】の評価を一気に高めたスピン系シリーズ【アクシス】を発表。「いかにもスピン系です!」という空気を切り裂くような鋭いエッジを利かせ、ダイアデムの基幹システムである「FSシステム(フレーム内部に3室を設けることで捩れ剛性を高める構造)」の採用や、「クライボン(ドイツ「クライバーグ社が生んだ振動減衰素材」)で接着したカーボンプリプレグをレイアップに組み込むなどがうまく融合して、ついに一般プレーヤーからも高い評価を受けるに至る。【アクシス】を使うエリーナ・スビトリーナが女子世界ランク7位にランクされたことも手伝い、【ダイアデム】の知名度はさらに上がった。
そして今回の【エレベート 98 V4】が、これまで3代が引き継いできたブルーのコスメティックから脱却し、シブ〜いディープグリーン系を纏って登場した。
このディープグリーンが、じつになんとも「イイ感じ」に仕上がっているわけで……
「緑色のラケットは売れない伝説」に転機到来。
「だからこそ目立つ!」が大当たり……からの
テニスラケット業界には、昔から、ある法則が囁かれていた。それは……
「緑色のラケットは、絶対に売れない」というものだ。
緑色を使って成功していたのは【プリンス グラファイト】のみであり、あれも「全体黒にピンストライプであしらった」デザインであり、「緑色のラケット」とは言いがたい」。それ以外は、アクセントカラーに使われることもめったになかった。
ときどき「なんとなく緑っぽい感じ」は登場していたが、緑色のイメージは、まぁ見事なほどにコケてしまい、もはやラケットにとって『禁忌色』扱いであった。そんな雰囲気を壊したのがヨネックス【パーセプト】の「オリーブグリーン」というコスメティックカラー。「グリーン!」とは言い切れないが、雰囲気は緑である。
そして堂々と「禁忌をぶっ壊した」のがウイルソン【ブレード】で、ラケット業界関係者も度肝を抜かれた「キンキラのド緑」。これは大ウイルソン様が振りかざしたからこそ成功したわけだが、「もはや『禁忌』の感覚などなくなっている時代なのかもしれない」……と考えていたところで、ついに出会ってしまった。
【ブレード】で受けたショックが大きすぎたせいか、とてもしっくりくる落ち着いた緑系を纏った「あいつ」が、向こうからオレを呼んでいる。それは、なんとも鈍い緑色。真っ先に頭に浮かんだのが「玉露茶」の茶葉の深緑色。
う〜ん、落ち着いている……
日本の伝統色に「千歳緑」という色があるが、それを暗くしたような風情がある、なんともなじみ深い色合いだ。
その塗装に目を近づけてよく見ると、非常に細かいグリッターペイント(ラメ塗装)になっていて、おそらくベースは黒で、その上にグリーンのフレークと、それより細かい、やや銅色がかったメタリックのフレークが蒔かれている。こうした微細な蒔絵的塗装術が、遠目には「玉露茶色」に見せていて、観察すればするほど、やっている芸の細かさに感じ入る。

こうした深緑色に個人的に感じるのは、ミリタリー的な雰囲気だ。幼少期から第二次大戦中の航空機に興味を持っていた筆者にとって、この色は「ドンピシャど真ん中」なのだ。学生時代には、自分のラケットをなんとか武器的に仕上げようと思って、濃いオリーブドラブ色の塗装をして、白で英字ステンシルまで入れて悦に入っていたほどの変態ぶり。
普段から「ラケット選びはデザインなんかじゃなく、性能的に自分に適したものを選ばなければならない」と謳ってきたが、【エレベート 98 V4】との出会いが、そんな理性を吹っ飛ばしてしまった。
このラケットを、自分のものにしたい!
そんな欲求物質が、脳内を駆け巡っていた。
ゲームに勝つだけがテニスじゃない。
「演出を愉しむ」という遊び方もある
黄金の1980年代、若者たちは頑張っていた。自分なりの理想像を持ち、それに近付こうとあがいていた。大人たちは、成長を続ける経済に夢を持って働き、若者たちは挑戦することに、まるで怯えなどなかった。
勉強という学生の本分を「とりあえず横にのけといて」、いろんなことに興味と好奇心を向けた。その当時、就職に不安を抱く学生などおらず(もちろんフリーターなんて存在はなく、近い将来には間違いなく就職が待っていると思っていた)、人生を愉しむためにサークルに所属する学生たちは、無邪気な友達関係を広げていった。
そんななかで、彼らが覚えたのが「演出することの愉悦感」。今ならば「コスプレ」を楽しむことにも似ていようか。彼らにとってテニスもスキーも、交流ツールの一つであり、「それで身を立てよう」なんて思ってもいなかった時代。競技なんて泥くさく、無法な上下関係に縛られることから必死に逃れようとして、「サークル」というユルい関係性が許される集団が絶頂期を迎えていた。いま考えると、じつにどうもふざけた時代だったのだ。
でもいっぽうで、世界のテニスプロには多大な関心を持っていた。彼らが使うラケットに憧れ、新しいウェアにドキドキしながらテニスのテレビ中継や雑誌を見ていた。同じものを使ったからといって、自分も強くなれるわけない……ことはわかっている。それでも興味は津々だった。
あの当時、若者たちにとっての檜舞台は、テニスリゾート。その舞台でいかに輝けるか?を思い描き、どんな姿でコートに立てば自分が輝けるかに心を砕き、ちょっとでも光る道具で、自分を引き立たたせようとバイトに精を出す。でもフィラもエレッセも高嶺の花。頑張っても国内ブランドのウェアが精一杯だし、チェルッティ1881のシャツ&パンツで登場しても、浮いちゃうだけだしね。
テニス小僧たちが、そういった世代を卒業すると、週末をテニスクラブで過ごすことができる余裕を求めて、ウィークデイを頑張るようになる。そしてやっと…… 「ほしいっ!」と思っていたものを、手に入れることができるようになるし、似合うようにもなる。
それまでは「役に立つもの」「自分のためになるもの」ばかりを優先して揃えてきたが、実益とはかけ離れてるとわかっていながら、『持っていたいもの』に目が向いてしまう。
「周囲の目」などまったく気にしない。ひとから「よく見られたい」「自慢になる」という気持ちなど微塵もなく、ひたすら「自分が好きなもの」「横に置いておきたいもの」を手に入れ、ひとり悦に入りたいだけなのだ。
だから……ダイアデム【エレベート 98 V4】を所有したい。
「使いたい」というより、持っていたい・壁に飾って眺めていたい。落ち着いた玉露茶色メタリックが載るフレーム形状のバランス的美観があるから、そう思えるのだろう。
やや丸みを帯びたボックス形状。
27インチに対する98平方インチという、長さと面サイズのバランス調和。
ほのかに逆卵形に振られた楕円型フェイス形状。
面からシャフトにかけての「無理のない曲線」。
「BALANCE」「WEIGHT」「PATTERN」「HEAD SIZE」のスペックを、図案ロゴと併せてフレームサイドに小さく刻んだ芸の細かさ。
筆者がこれまで出会ってきた「美しいと感じたラケット」は3本。
#1. 学生時代に歯を食いしばって買った、1983年ウイルソン【ウルトラ 2 ミッド】。
#2. バボラの125周年パーティーで参加者だけに渡された【ピュアドライブ】のブラックボディに、往年の契約プレーヤーたちのシグネチャーを並べて刻んだ超レアの1本。
#3. 最近手にした、プリンス【ファントムグラファイト BEAMS限定モデル】。
そこに ダイアデム【エレベート 98 V4】が、4本めとして加わることとなった。
ダイアデム|DIADEM/エレベート 98 V4|ELEVATE 98 V4
フレーム内部に壁を作るFSシステム&高密度フォームにより面剛性が高くシャフトの捻じれも大変少ないフレーム設計+KRAIBONを搭載。さらにControl Joint Grommetsによりフレーム全体の応力分布を管理するように設計。さらに平行グロメット穴によりスウィートエリア拡大、パワー増大、ソフトな打感、高い打ち出し角を実現。
商品をCheck!


【関連記事】新生アクセサリーブランド【aktiv.】登場。知る人ぞ知る「逸品」をコレクション。これが『アクティフ プロダクツ』だ!【関連記事】「こりゃスゲェ!」テクニファイバーの軽量デイパック。1か月使用して、その未来的合理性に感嘆する【関連記事】「ポリエステルには無理」と言われていた『限界』を突き抜けた新次元ストリング ソリンコ『MACH-10』文=松尾高司1960年 生まれ。『月刊テニスジャーナル』で 26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。テニスアイテムを評価し記事などを書く、おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。