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2022.01.28

選手情報

「自分の障害を愛しています」稀代の車いすテニス選手、アルコットが引退。今後は俳優をやって「オスカーを取りたい」[全豪オープン]

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昨年ゴールデンスラム達成のアルコットが地元の全豪でピリオドを打つ

「正直言って、ビッグウィークだし、ビッグイヤーだったし、ビッグな31年だ。これで引退するつもり。覚悟はできていたから、負けても痛くはない。もちろん、最高の形で引退したかったけれどね。15回か16回優勝、グランドスラム・タイトルの数は、正直数えてない。8回以降は同じだった。何回優勝したか忘れた(笑) そんなことはどうでもいいんだ」、手に持っているペットボトルに入れたビールを飲むと、記者会見の冒頭でディラン・アルコット(オーストラリア/車いすテニスクアード世界ランク1位)が語った。今大会で引退となるアルコット。普通なら悲しい会見となるだろうが、その明るい性格、しゃべりのうまさから会見が和む(ちなみに、ビールは彼の慈善団体のスポンサーで、1瓶飲むごとに1豪ドルが寄付されるのだという)。

【写真】ディラン・アルコット全豪2022クアード決勝写真館(写真15点)

【動画】ディラン・アルコット全豪2022クアード決勝ハイライトをチェック

1月27日、全豪オープン車いすテニスクアードクラス*決勝がロッド・レーバー・アリーナで行われ、地元ファンが見守る中、第1シードとして第2シードのサム・シュローダー(オランダ/同3位)と対戦したものの、5-7、0-6で敗れて準優勝。だが、“そんなことはたいしたことではないんだ”とアルコットは笑う。
その名前を、昨年の東京パラリンピックで覚えている人もいるだろう。彼は同大会で金メダルを獲得。史上初の年間ゴールデンスラムを達成した選手である。
*=四肢(両腕・両脚)の内の三肢以上に障害のある選手のために用意されたクラス

2015年の全豪オープンで初めてグランドスラムタイトルを手にしたアルコットは、昨年まで7連覇し、単複合わせてグランドスラム通算23勝、3度のパラリンピック金メダルを獲得。史上最高の選手として活躍してきた。

興味深いのは、アルコットの活躍がコートの中に留まらないということ。自国の障害者のための慈善団体を設立し、オーストラリアの障害を持つ若者を支援する募金活動を行う一方、ラジオDJや音楽フェスティバルを運営したりとさまざまな活躍をしている。またキャリアの途中、車いすバスケ選手に転向し、2008年の北京パラで金メダル、2012年のロンドンパラでは銀メダルを獲得している(2014年から車いすテニスに復帰)。

記者会見では、全豪オープン初出場となった2014年のことを「そこにいたのは、父と母、兄と仲間数人の5人くらいだった」と振り返っている。8年後、センターコートで多くの観客の声援を受けながら、プレーすることになる。「今日何が起こったと思う?100万人がテレビで見て、スタジアムが満員になったんだ。でも、恐ろしいことに、もう慣れてしまったよ。5人の観客に見守られていた男が、あれが普通になってしまったんだ。考えてみれば、バカバカしい話だよ(笑) 感謝しかない。私のキャリアを支えてくれたすべての人に、私は永遠に感謝する。今日、みんなが言ってくれた一番うれしい言葉は、“これは始まりに過ぎない”というものだ」とアルコットが笑いながら語っている。

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Photo by Takeo Tanuma