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2022.11.07

選手情報

【NY便り】スーパーインフレの中、日本人コーチはどう運営しているのか?

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NYのテニスクラブは
インフレも影響なし!?

インフレが止まらないと報道もあるアメリカ・ニューヨーク。余暇活動に当たるテニスクラブの運営はどうなっているのか? そこで今回、コロナ禍の2020年「ジュニアサマーキャンプ」を取材した「ライ・ラケット・クラブ」で現在もディレクターを務める稲川剛氏を取材。消費者物価指数が上がり続けるニューヨークでのテニスクラブ運営における変化を伺った。

【写真16点】「ライ・ラケット・クラブ」のレッスン風景をチェック


Q:インフレの影響で様々な物やサービスの値段が上がっていますが、ライ・ラケット・クラブ(以下RRC)で影響はいかがでしょうか?

「おかげさまで現在のところRRCはコートに空きがない状況です。コートは9面あり、9月〜来年4月までの期間に、プロ20人がスタッフとしています。この20人の内、フルタイムで働くコーチもいれば、夏場は会員制テニス兼ゴルフクラブ
で活動するコーチもいる。才能あるスタッフが揃っていると思います」

Q:現在のレッスン料金などを教えてください

「ジュニアオレンジボール1時間のレッスンは63ドル(約9,300円/4人グループ)。期間は14週間で、1時間のフリープラクティスの時間がついてきます。同様に他のプログラムについても試合を含めたジュニア育成クラスもあります。個人レッスンではハイパフォーマンスコーチのレッスンは175ドル(約25,800円/60分)、ヘッドプロクラスなら155ドル(約22,800円)、ジュニアプロクラスが145ドル(約21,400円)となりますが、$100(14.500円)はプロ(コーチ)に支払います」

Q:人件費が高騰していることは、能力のあるプロを呼べることにつながりますか?

「RRCで働く魅力の一つはコーチの能力給制度があること。プロの教え方についてのスタイルはクラブからのマニュアルがなく(プロフェッショナルイズムはあるが)レッスンの個性や魅力を発揮しやすい環境にあります。また、毎年ボーナスも出しています。そこは働くコーチにとっては魅力的かもしれませんね」

Q:お聞きしているとインフレの影響は無さそうです。

「毎年9月になると、生徒から“今年はどれだけ上がったの(レッスン料)”と聞かれます。もうレッスン料の値上がりは、当然のような感覚だと思います。この地域は、裕福なエリアということもありますが、僕自身もこの10年はまったく同じスケジュールで継続が成立しています。他のプロも同じ状況にありコートに空きが出ないのはありがたいことです」

Q:プロコーチをまとめる苦労はいかがでしょうか?

「これまでたくさんのプロと接してきました。初年度は、クラブ側から30時間ぐらいを目処に時間を与えてレッスンをやっていく中で育てていきます。その中でテニスコーチとしてのビジネスを分かっていないと継続していけないコーチも出ますね」

Q:人気コーチになる要素とはなんでしょうか?

「個人的な意見としては“ハート”があれば生徒はついていきます。お金や条件だけに囚われてしまうコーチは離れていく傾向にあるように思います。

南米系のコーチの“ラテンの血”は、いい意味でも悪い意味でも驚くこともありますね。僕の日本的感性が小さく感じることがあります。悪い方だと、レッスンに遅刻してくるコーチもいます。そういう時はもちろん注意します。『君にとっての2分はたいしたことないけど、(円換算だと300円になり)生徒にとっては大きなことだ』と言うんです。その割に終わる時間はきっちり守ったり(笑) それはお金が出ない時間外のことはやらないと割りきっているんです」


生徒が何を求めているのか?を
把握することが大事

Q:いろいろなエピソードがありそうですね。

「6年前に盟友となるコーチを亡くしたのですが、彼は『レッスンを代わってくれ!』と当日電話してきたり、1時間のレッスンで40分話していることもありました。それでも『ベストコーチの一人』と言える存在で、皆が人間味あふれる彼のタレントが好きでしたね。ボールを打ちたくない、という理由もあった? ようですが、その日にレッスンがある大人や子供の好きな話題の情報収集はマメにやっていて、多くのことを学びました。これは特別なケースかもしれませんが、顧客が求めるものが何か? ということを感じる感性は磨かれていくものだと思います」

Q:9割近い白人の占める割合が多いクラブですが、顧客対応などについて何かあればお伝えいただけますでしょうか。

「クラブ側としては対応可能なすべての手段をご提案するのですが、場所やレッスンのクレームが続く場合は返金をし、このクラブで難しいようなら、他のクラブに行ってもらうこともあります。ここまでやると大概の方は、移籍はしないですね。そういうクレームも年々減ってきています。

また私は日本人です、が人種についてあまり壁などを感じたことはありません。“アジアンヘイト(東洋人差別)”」がニュースとなっていた頃、家族にはマンハッタンに行く時は気をつけるように言っていましたが、自分としては彼らと対等な存在であるという姿勢には変わりなく日々接しています」

Q:テニスのレッスンについて工夫されている点はありますか?

「自分に関して言えば生徒の好きなこと、興味のあることについて、どんどん質問をしていきます。例えば『ジャパニーズソーダ(ラムネ)を知っている?』と聞いたり(笑) モチベーションの低いグループには、時間を決めてコーナーのカゴにボールが入れるとプレゼントをあげたり。またネットに出たがらないジュニアや大人などにはベースラインをホーム(家)と想定して、ネットに向かう際にはフロリダ州にあるサマーハウスやウインターキャビン(共に別荘)を想像させて楽しんでもらったりしますね。実際に別荘を持っていて、季節によって必ず旅行に出かけたりするから使えることですね。テキサス州で教えた経験もありますが、アメリカ南部の方が日本の先生と生徒に近い感覚ですね。良い悪いではなくある意味対等な立場でお互いをリスペクトするところがライラケットクラブの良いところだと思っています」

Q:日本人とアメリカ人の気質の違いなどについてお話をいただけますか?

「日本人は“どうぞ、どうぞ”の譲るところがあり、その中でリーダーが生まれる傾向にあります。アメリカ人の子は“Me! Me!”と自分がやる! 自分が発言する!自分ができる! なんです。たまに“自分のサーブは130マイル(時速209km)のスピードが出るんだぜ!”というとんでもないことを言う子もいますが、“じゃ見せてよ?”」と言ってやらせるとできない(笑) でも、それでもいいんです。その会話の中からお互いの信頼を築いていけるきっかけを探る。そして展開していけばいい。それが楽しい! と思える自分がいます。たまに叱ることももちろんありますけどね。愛を持って対応していけば人種を問わず、理解してもらえることにより今のクラブの現状につながっているように思います」


取材協力:ライラケットクラブ(https://ryeracquet.com)
1ドル=147.5円で計算

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写真:知花泰三