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2023.11.21

選手情報

土居美咲らトップ選手を指導してきた佐藤雅弘トレーナー「グランドスラムの2週間を戦い続ける身体づくりが必要」[前編]

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Q:昔、体育の授業でやっていたこともやらなくなった、ということも原因のひとつなのでしょうか。

佐藤トレーナー:体育の方でも準備体操をやっていると思いますが、例えば、「ラジオ体操」をきれいにしっかりと器械体操の選手がやるようになれば、あれがもうウォームアップになっています。極端に言えば(ラジオ体操は)ダイナミックストレッチですから、正しいフォームで実施することによって、関節の可動域を大きく動かすので柔軟性の向上にも繋がります。ただそこまでだと、競技の方に移行するには十分ではないので、テニス競技の特性を考慮した中での種目を導入した準備することが大切になります。

振り返れば、昔の子供たちはいろんな遊びをしていました。例えば友達同士でグループを作って家の周りを「リレー」したり、それも一方向からではなく対戦相手と逆方向から回ってみたり…。「インターバルトレーニング」にもなっていて、子供の頃にやっていた「遊び」が科学的なトレーニング理論と合致していました。野山を駆け巡っていた経験というのが、不規則な地面など平坦なところではないところを走ることでバランスをとる能力が自然と伸びていたりします。今で言うクロスカントリーです。オフロード着地での衝撃が抑えられることで故障のリスクを減らし、身体全体のバランスが自然と鍛えられていたんです。

テニスの技術はレッスンで上手になっていくが、最終的には「地の身体」が弱いので、上のレベルに行くとフィットネスなしではどうすることもできないことがある。テニスの選手の優先順位は、①打球スキルの向上②ケガしたらケアをする、というこのローテーションがあるため、なかなかブレイクスルーできないのは、フィットネス、身体の力への優先順位が遅れていることに原因はあると思います。今すべき事をしっかり実践して、忘れ物をしないように。今やらなければならないものは何かに気づいた人達は伸びています。




Q:「トレーナー」という職業が認知されていなかった時代に何がきっかけとなったのでしょうか?

佐藤トレーナー:大学を卒業し3年ほど大学の助手として勤務していた時に、当時(財)吉田記念テニストレーニングセンター(TTC)所長の橋爪功さんから、日本にはない科学的なトレーニングを取り入れた施設を作る計画があり、そこで「フィットネスという部門を置きジュニア部門、プロの選手も含めてた育成強化の方をやってみませんか?」と声をかけていただきました。日本で初めての施設で「フィットネスを佐藤さんの思う通りにやってもらっていいから」と言っていただいて、当時30歳でしたが競技者の育成強化に関わることができることに興味が湧いて心が動き、1990年にTTCに入職しました。

Q:そこから本格的なトレーナーとしての活動が始まったのですね。

佐藤トレーナー:当時TTCには、エリエールという最新式の測定・トレーニング機器が導入され、現在でいう動作解析をするリサーチルームというのもありました。今では、テクノロジーが発達し、簡単に出来るようになりましたが、その当時、専門の分野とテクニカルな部分をリンクさせて良いものを作るために長時間費やし苦労したことを思い出します。施設(TTC)ができる前には、アメリカのオリンピックトレーニングセンター(コロラド州)に視察に行かせてもらったり、テニスの現場ではニックボロテリー(現在のIMGアカデミー)やハリーホップマン(現在のサドルブルック)に研修に行き情報を収集してきたりしました。

Q:そこで得た知識と経験をもとに始動したという感じですか。

佐藤トレーナー:そうですね、アレンジはしていますが、30年前とベーシックなところは全く変わっていません。ジュニアでもプロでも最初に取り掛かる内容というのは昔から同じです。例えば、普段の姿勢づくりや走り方、腕の使い方などですね。走り方がカッコ悪い子供たちには正確なフォームというより、とにかく見てカッコいいフォームを作ろうと言っています。数値とかもフィールドテストをやっていると出てきますが、フォームが変われば必然的にタイムは伸びていきます。昔は誰々がこの数値のタイムを出したのでこれを目標に、ということがありましたが、効率よくスピードの出る走り方や正しい姿勢の保ち方ができるようになると切り替えのスピードも上がります。正しいことを最初にしっかり教えておけば後は応用が利く。ベースがないものに欧米の選手がこんなトレーニングをやっているから、としてみてもあまり意味を成しません。テニスの例で言うと、「振り回し」は私たちから見ると根性論的なものに近い認識で、まずは正しいフォームで打てるところからだんだん移動距離を広げていけばいいのではと思ってしまいます。

テニスのトップ選手たちというのは、いろんなフォームがあり個性的ですが、最終的にはみんなバイオメカニクス的には合理的で美的にも美しい。短距離走を例にとるならば、未発達な子供たちにタイムを縮めるためにガムシャラに頑張らせることはマイナスに働きます。大切な事は、子供のうちに、正しい運動プログラムを植えつけておくことです。それがあれば、身体が大きくなればその正しいプログラムがあれば自然と伸びていく、物の優先順位を間違えずにきちんとやっておけば良いのですが、タイム優先でやると(その時は)良くなるけれど身体ができてきた時に伸びないということがあるということを知っておく必要があります。

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写真=本人提供