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2025.05.24

ジュニア選手

錦織圭ら数々のトップジュニアを導いてきた米沢徹コーチに聞く日本人が世界で戦うために必要なこと「強靭な身体と体力と気持ちの強さが要求される」【後編】

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――前回のインタビューで「一日中コートに居るのが楽しい」とお話しをいただきました。

「“テニス=人生”ですね、長いことやっていますから。私は世界で一番だったわけではありませんし、みんな一からのスタートでコツコツやっていて、テニスのレベルアップを一緒に目指しています」

――プロでの選手生活とコーチでの経験値があるにも関わらず、ジュニアとの立ち位置ではフラットな関係を築いているように感じました。

「上には(強い選手が)いっぱいいるので、(経験値の高さだけで)押さえつけるような指導はできないんですね。私の現役時代のように50年前にやっているテニスとは違い、昔の頃から役に立つことなんて少しはあるかもしれませんが、ほとんどはもっと新しく、今は10年先の選手を作ろうとしています。現在の進歩と同じように昔に頼っていたらダメだと思うんです。やはり新しいものを作っていかなければいけません」

「そうでないと世界のスピードに取り残されてしまいます。それはAIのなかった時代から現代の進化に例えることができると思います。私もこの機会を与えていただいて再認識するところでもあり、もっともっと先を見ないとなと痛感しています」

――話が前に戻りますが、ヨーロッパではテニスが“文化”として根づいているとすると、アメリカは“ビジネス”に寄っているところがあります。テニスが文化としてある背景について、もう少しお話をいただけますでしょうか。

「ヨーロッパに行くとテニスをしない人も観戦に訪れたりするところから(テニスが文化であることを)感じますね。南米にも『クラブ』があり、そこに人が集まる社交会があります。日本もアメリカも他に娯楽がたくさんあると思いますが、ヨーロッパでは昔のままを残す。建物などを例に挙げれば歴史を大事にしますよね。新しくしないところを美徳としています」

「その点、アメリカはどんどん新しくしていく、全米のサーフェスにせよ、(フロリダで開催される国際的なトーナメント)ジュニアオレンジボウルなど会場が変化しています。以前のマイアミ・オープンの会場も今では立ち入り禁止となり、立派なスタジアムが廃墟となっています。ビジネスとして成功する方を取っていくというところですね」

「話は変わりますが、先月、フランスに行った際に部屋が寒いんです、室温が10℃ぐらいにしてあるんです。日本やアメリカは部屋が暖かいのにフランスではどこの家を借りてもそんな感じで、お湯もぬるく節約しながら資源を大事にしています。(良い悪いではなく)そういうところがテニスに対する認識の違いにも表れているように思います」

――毎日繰り返しの練習で世界を目指しているというところで、どのような内容で取り組まれているのでしょうか。

「内容としては全てを網羅しています。オールラウンドを良しとしていますので、どこに行っても多彩でワンパターンにならず、いろんなポイントのパターンでテニスができることを目指し、いろんなショットを磨く練習を主にやっています。マニュアル化はせず『今日は何をやっていないか?』と聞いて、その時の人数に合わせて対応するようにしています」

――欧米のジュニア選手は(10代後半に)190センチを越えてくるということは、それを見越して日本人が対策することとしてどういったことが考えられますか。

「テニスの技術面では“タイミングの速さ”は絶対条件になってきます。コート内に入っての展開することももちろんですが、相手の深いボールの場合でもショートバウンドで思ったところに、思った球種で打てること、そしてビッグサーブじゃなくてもグッドサーブを持っていること、それに尽きます。また、速いテンポのラリーで低い軌道のショットにより(相手がリズムを崩し)、少し軌道が高くなったところをコート内に入って打ち込む。その状況になれば、日本人にもチャンスはあると思います」

「ベースラインの後ろに下がって、ナダルのような打点でボールを打って真似をしても、まずボールが飛ばない。(スイングスピードを上げ、スピン量を増やすために)腕を後ろに振っている選手も多いのですが、そのスタイルよりもライジングでボールを速いタイミングでさばき(相手のボールを)甘くして打ち込んでいくことが必要になってきます。(私のチームの)選手にはそれしかない!ぐらい強調しています」

「トップの選手、シナーも中に入るのが速いですよね、そのためのフットワークと予測が大事になってきます。身体もブレがないように鍛えなければいけません。コートの中でライジングで打つプレースタイルの方が、ベースラインの後ろで走り回るよりも、体力的にも対応できると思います」

「あとは“不屈の精神”があるかどうかとか。ハッキリ言えば欧米の選手との体格差のハンディがある。そこに食い下がっていくには、強靭な身体と体力と気持ちの強さが要求されるところです。それを想像すると『スパルタでやる』と考えがちですが、そういうスポーツではないように思います。低年齢時にテニスの技術を究極まで上手くしておいて、高校生ぐらいになってガンガン鍛え上げていくと面白くなります。それまでの“テニス像”に(可能性の)リミットができてしまうと鍛え上げる前に壁ができてしまいます。それまでに色んな意味で究極まで上手くなって、多彩になったところから身体を鍛え上げるというのが順番としてはチャンスがあるのかなと思います」

「あと一つ、絶対的にサーブは思ったところに入るように練習させています。場所を選ばす自分で練習できること、いろんな球種でラインに乗せることができるよう、『巨人の星』ではないですが、地道にやればレベルアップしますよね」

――速いタイミングでボールをとらえる能力を高めるためにどのような練習をされているのでしょうか。

「ラリーの際に速い打つためコート内に入って、タイミングを速くするように意識させたり、球出しでも左右に動かしたりします。(基本的な)後ろに下がって打つことはほとんどないですね。すべてコート内に入ってボールを捌いていく感覚を身につけさせるというのが多いですね。左右にボールを出して、それをカウンター的に思ったところへ打てるようにボールを出しますが、これがなかなか上手くいかない。ですが、上手く行った時の感覚を身につけ、味をしめて実戦で使えるようになったらと思いながら球出しをしています。カウンター(通称振り回し)の練習をすると怪我が怖いので、あまり無理をさせない程度にたくさんはやらないようにしていますね」

――練習が楽しい、コートに立っていることが楽しくて仕方がないというのも、長続きしていく成長への過程では大切だと思います。指導者も苦しいことが成長につながると考えがちですが、その中で取り組みとして気をつけていることはありますか。

「その時、その時のコーチのアイディアで毎日同じことでも順番を変えたり、(察して)『この選手は今これをやりたいんだな』とか『次は何をやろうか?』と選手の方に聞いたりしています。こちらが絶対にコレをやる!という時と選手にオプションを与えたりすると一生懸命にやったりします。やらされているというより、自分達が選択してやっているというところも大事にしています。やらせる練習は必死になって走り回るという苦しさを伴うものがありますが、やっておいた方が良いと思うメニューに関してはコーチが主導していくことももちろん必要となってきます」

――貴重な現場での体験から未来を創る選手のお話をありがとうございました。

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写真=本人提供