close

2016.02.20

大会情報

2016年全豪オープンREPORT

  • 著者をフォローする
  • 記事を保存

SHARE

  • 著者をフォローする
  • 記事を保存

2016年全豪オープンREPORT

錦織 圭は2年連続3度目のベスト8
「ジョコビッチにはまだまだ届かないところがたくさんあります」と決意を新たに

年度が変わって最初ということもあり、全豪オープンは全てがアップデートされた状態でのスタート、と思われがちだが、実際にはオフは短く、その間も多忙を極めるトップ選手たちにとっては、ある程度長めの休息と、調整ができた上で臨める大会という程度なのが実情だろう。 もちろん、ある程度以上の強化をする時間的な余裕がないわけではないにせよ、メンタル面でのリセットが最も大きな要素になるぐらいで、ドラスティックに何かのショットが良くなったり、成長したりというのは、シーズンの中で積み重ねられていくもの。多くの選手たちにとって、「2016年バージョン」の完成を見るのはおそらく、シーズン半ばのヨーロッパ・シーズン付近と見るのが妥当で、全豪オープンは言わばそのテストケースやプロローグと言っていい。



錦織にとっての今年の全豪オープンはベスト8。昨年に引き続きのベスト8で、通算では3度目。大会前の下馬評では、「ビッグ4」に次ぐセカンドグループのトップ扱いであり、優勝候補とまでは行かずとも、有力なダークホースとして期待される存在だったのは間違いない。

 1回戦では「トップ10並の力がある」と警戒していたコールシュライバーをストレートで退け、2回戦ではIMGアカデミーで共に練習を積んだ「友人」でもあるクライチェクをやはりストレートで下し、3回戦のガルシア・ロペス戦では1セットを落としたものの、4回戦では昨年の全仏オープンで敗れたツォンガをストレートで下しての勝ち上がり。そして迎えた準々決勝の相手は、目下「一強体制」を確実なものとしつつあるジョコビッチだった。



「出だしはよかった」という錦織だったが、ジョコビッチは錦織の攻めをしっかりと受け止めて簡単にポイントを与えない。ポジションを上げ下げしながら、攻守にメリハリを付けては、錦織のミスを引き出した。

しかし、実はサービス関連のスタッツではほとんど差がなく、一部では錦織が上を行っている。これは「2016年バージョン」の錦織が、サービスの攻撃力の向上をテーマにした結果のものだろうと思われ、実際、大会を通じても錦織のサービス力の向上は顕著で、ファーストサービスではもちろん、セカンドサービス時のポイントの支配力も上がっていた。




だが、ジョコビッチの牙城を脅かすまでには至らなかったのは、攻守の両面でわずかずつ相手のプレーの精度が高かったからだろう。
 とはいえ、強化されたサービスと、持ち前のストロークによる攻撃力のコンビネーションが実戦の中で整ってくれば、シーズンの中盤から後半に向けて、その差を縮められそうなムードを濃厚に感じさせてくれたのも確か。「グランドスラム最初の1勝目」をどこで挙げられるのか、今年の錦織はもう、そういう視点で語っていいレベルに達していると感じさせられた全豪オープンだった。

グランドスラム奪還ならず
18照明が遠いフェデラー

今年の8月に35歳。大ベテランと言われて当然の年齢ながら、3位をキープしているのがフェデラーで、前哨戦のATP250ブリスベンでは決勝でラオニッチには敗れたものの、準優勝と好調をアピールして迎えたのがこの全豪オープンだった。

昨季のオフにエドバーグが陣営から離れ、新たにフェデラーのチームに加わったのがイバン・ルビチッチ。フェデラーとはほぼ同世代の元トップ選手だが、彼を陣営に加えたことについては、様々な憶測が飛んでいて、その中でも最も有力視されているのが「ジョコビッチ対策」だ。



ルビチッチはクロアチア人。国家単位としてはクロアチアとジョコビッチのセルビアとは浅からぬ悪しき因縁があるが、個人単位でのルビチッチとジョコビッチの仲は近しい関係とされていて、彼がラオニッチのコーチを務めていた時代に、ジョコビッチがラオニッチをモンテカルロでの練習セッションに呼んだりしたのも、ラオニッチ自身が同じく旧ユーゴスラビアのボスニア出身であり、かつ、ルビチッチとも旧知の関係ゆえという話もあった。そんな彼をフェデラーが陣営に招いたことについては、ジョコビッチ自身も警戒心を持っているという意味のコメントをしているほどだ。

全豪でのフェデラーは3回戦のディミトロフ戦で1セットを落としたものの、その他はすべてストレート勝ちで準決勝に進んでいる。サービスゲームの支配力は圧倒的で、ライン上に190〜200キロ前後のサービスを正確に突き刺して相手のリターンを崩し、素早くポイントを決めてしまうショートポイント・スタイルにはさらなる磨きがかけられているように見えた。ネットプレーは一時期ほど多用しなくなった印象もあったが、要所では相手のラリーに付き合わず、ポイントをショートカットして支配する彼らしいプレーを繰り返し見せるなど、その健在ぶりを見せつけての準決勝進出だった。



だが、準決勝で待ち受けていたのはジョコビッチだ。準々決勝でベルディッチを破ったときには、観客たちから「SABRはやらないのか?」と聞かれた声に「見たい? じゃあ次は少なくとも1回はやろうかな」などと余裕を見せていたフェデラーだったが、ジョコビッチにはあらゆる攻撃を受け止められ、第1セットを1-6で落とすとそのまま流れを失った。ジョコビッチは「ロジャー相手の試合では今までで最高の2セットだった」と振り返っていたが、第2セットも2-6で落としたフェデラーは、第3セットこそ6-3で奪い返したが、これが精一杯の抵抗だった。

「まだまだ4時間でも5時間でも走れる。みんなは僕の年齢のことを気にしているみたいだけれどね」と試合後のフェデラーは憮然とした表情で話していたが、元々、フェデラーは負けた後の記者会見でも強気を崩さずコメントすることが多いし、悔しさを隠すということもしない。言葉上は穏やかに相手を讃えているように見えても、その表情は屈辱に必死で耐えているということがほとんどで、自身にマイナスな質問を投げかけられるのは断固拒否、という姿勢を貫いてきた。

そして、そういう意志の強さこそが彼の強さを支えてきた要素でもある。彼のこの部分が崩れない限り、彼はいつまでも優勝候補の一角であり続けるだろうし、何度でもまた甦るだろう。それが生きる伝説と呼ばれるフェデラーの強さの理由だからだ。この準決勝の翌日に膝の故障を訴え、2月に入ってすぐに内視鏡による手術を決断したというニュースも、並々ならぬ彼の復活への執念と見れば、心強いニュースと言っていいのかもしれない。


完成度を高めたラオニッチのテニス

昨シーズンは脚部を中心に故障が多く、トップ10からも脱落するなどやや伸び悩んだ形のラオニッチだったが、オフに今までのコーチのルビチッチを解任し、新たにカルロス・モヤを迎えたというニュースは世界では割と大きめのニュースとして伝えられていた。

 ラオニッチのサービスゲームは現在のツアーでも屈指の支配力を誇る。つまり、あとはリターンゲームでの勝率を挙げられれば、自動的に勝利はいくらでも転がり込んでくる可能性が考えられる、というのがラオニッチという存在だ。口で言うほど簡単なことではないが、彼のここまでの軌跡を見れば、まるで不可能なことではないようにも思える。



かつてのラオニッチのストロークはフォアには強力なものがあったが、バックは完全に弱点で、フォアに積極的に回り込むことでその弱点を埋めようとしていた。

だが、バックが普通にコントロールできるようになってトップ10に肉薄し、ネットプレーが向上してトップ10に入った。毎年少しずつ課題をクリアし、弱点を潰してきたのが彼のここまでの選手としての成長過程だ。モヤを陣営に加えたのは、その最後の仕上げと見ていいだろう。

モヤも現役時代はラオニッチと同じく大型選手だったが、その動きのよさは長身選手の弱点を感じさせない鋭いもので、「クレー以外でも強いスペイン選手」のパイオニアとして世界ナンバーワンになった実績を持つ人物だ。強力なフォアと安定感と攻撃力のバランスのいいバックがモヤの武器で、スライスを含む回転の操作の能力の高さはさすがスペイン勢という巧さも持っていた。モヤのノウハウが100%ラオニッチに生かされれば、今季のラオニッチは面白い存在になりそうだという予感を漂わせる人事でもある。



今季のラオニッチは開幕戦のATP250ブリスベンでフェデラーを破っていきなり優勝で幕を上げた。全豪では4回戦のワウリンカ戦をフルセットの接戦で制し、準々決勝でも好調のモンフィスを押し切ってベスト4に進出し、マレーとの準決勝に進んでいた。試合前の評価ではマレーでも危ない、ラオニッチの初グランドスラム・タイトル獲得もありうるかも、という声も大きかったが、開幕から連勝を続けてきた分だけ増えた試合数の負担が、最後の最後の場面で脚部の故障という形で現れてしまったのが不運だった。第3セットの終盤に右脚内転筋に異常を起こしたラオニッチはマレーを相手に先に2-1とリードしながら、第4セット以降を落として逆転負けで全豪を終えた。「自分をプッシュできなくなった。思うようなサービスも打てず、コースも変えられなかった。コートで心を打ち砕かれたのは、それが理由だった」と試合後のラオニッチは話している。

大型のパワーヒッターだけに、身体にかかる負担は大きい。しかし、それを克服できなければ、彼のテニス選手としての完成もありえない。技術的に言えば、ここ最近の彼のストローク力の向上は目覚ましく、隙のない完成度の高い選手になりつつあるのは確か。あとはそれができるようになってきた自分のテニスに、フィジカルや戦術をアジャストさせていく段階に入っているのかもしれず、もし、彼が求めるすべての手札が揃えば、テニス界は新たなモンスターの誕生を見るかもしれない。モヤ効果が現れるのにはさすがに時間がかかると思われながら、すぐに結果を出してきたのも、彼の底知れない可能性を感じさせる。今季のラオニッチからは目が離せそうにない。

ウイルソン情報なんと400以上のウェブマガジン [Wilson Web Magazineバックナンバー(2011年1月号~2020年3月号)]




無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録