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2025.06.11

ギア情報

いまこそ目醒めよ!マルチフィラメントの大吟醸は「優しく」「掴んで」「ハイパワー」【トアルソン『BIOLOGIC CR1296』/GEAR SELECTION TENNIS EYE Special】

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マルチフィラメントの真髄を追求し続け
7年の歳月を費やした、ある男の執念


筆者が知る限り、通常のストリング開発にかける期間は、長くても「2年」である。そこを「超異例の7年」もの歳月を費やした。【CR1296】に取り組んだのは、開発部課長の「轟将弘」氏だった。彼は次のように語る。

「この【CR1296】で目指したのは、これまでトアルソンのメインとしてきたモノ&マルチとはまったく違う、完全なフルマルチです。そこには同タイプの既存品よりも明らかに優秀でなければならないという大きなプレッシャーがありました。でもあえてそこに挑むことが、我々の進歩となると信じ続けました」


【バイオロジック CR1296】の開発に取り組んだきた開発部課長 の轟 将弘氏。ストリングの開発期間としては破格の7年間という歳月を費やし、ついに辿り着いたのが「究極の王道フルマルチ」だった


さらに、「その開発には7年間という、開発期間を要しました。マルチフィラメントストリングを基礎から検討し直し、メイン素材となる超極細フィラメントの種類や、ポリウレタン樹脂の種類について基礎研究して、それらをどのように構築・成型すれば、我々が考える理想に近付くかを、幅広い選択肢から選び抜いてきました。その結果として辿り着いたのが『捲縮糸:クリンプドマルチフィラメント』です。この糸ならば、我々が目指した『マイルドな打球感に十分な飛びパワーを与えることができる』と確信したわけです」。

ストリングの開発スパンでは「あり得ない年月」を、基礎研究・試作検討・完成度向上にかけた轟氏の執念の結実が【CR1296】というわけである。

狙った到達点は「ポリウレタン高含有」。
マルチなのにパワフルさを生む「1296本の捲縮糸」


ナイロン製ストリングでは一般的に「インパクトに手応え感があり、俊敏でシャープな弾き感と、飛び感覚ならばモノフィラメント」。「マイルドでソフトな打球感ならばマルチフィラメント」というのが常識だ。ただ、マルチフィラメントは、打球衝撃を小さくしてくれる分だけ、飛びパワーがスポイルされる。つまり「飛びパワー」と「マイルドさ」は対抗的要素となっていた。

トアルソンは長い間、その両立を目指して「モノ&マルチ」を磨き抜いてきたのだが、彼らが未来への目標として掲げたのは「飛びに劣るフルマルチに、モノにも劣らない飛びパワーを与える」ことだった。

言ってみれば「諦められていた常識を完全に覆す」こと。そりゃ7年もかかるわけだ。

研究の中に光を見出したのは「マルチフィラメントに含浸させるポリウレタンの量を増やすこと」だった。そのためにポリウレタンの種類や性質と、マルチフィラメント原糸の太さの組み合わせを徹底的に解析した。超極細フィラメントの太さがどのくらいにすれば、ポリウレタン樹脂がまんべんなく含浸する隙間を確保できるか? どのくらいの粘度のポリウレタン樹脂を選べば、超極細フィラメントの隙間を満たしてくれるのか?

そんな研究開発の日々、あるとき、轟氏の頭に浮かんだのが「超極細フィラメントが縮れていれば、ポリウレタン樹脂を含みやすくなるのでは?」という発想だった。さっそく実際に試してみる。縮れた極細糸をまとめて、まるで綿を細長くしたような状態でポリウレタン樹脂に浸すと、縮れた極細糸の束は、たくさんの樹脂を抱え込み、成型のためにテンションをかけて真っ直ぐにしても、樹脂が極細糸の間を隙間なく満たしてくれることがわかった。



マルチフィラメントにおける反発パワーのロスを、限界まで小さくすることを成功させたのが「1296本の捲縮糸」。これを束ねてポリウレタン樹脂をたっぷり含ませ、テンションをかけて真っ直ぐに成型したことで、樹脂が隙間なく極細糸の間を満たして、高い反発係数を叩き出した

みっちり詰め込まれたポリウレタン樹脂のおかげで、成型されたストリングとしての伸縮性が高まり、反発係数が向上した……と。

んっ!? 反発係数って……ナニ?

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