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2023.11.21

選手情報

土居美咲らトップ選手を指導してきた佐藤雅弘トレーナー、終わりがないトレーニングも「1からきっちり段階を踏む」[後編]

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Q:トレーニングの効果は受け取るまでに長い期間が必要な側面がある中で選手との間の「信頼」がポイントになるように思います。

佐藤トレーナー:選手の試合のスケジュールを見ながらの組み立てが重要になります。選手の状態と照らし合わせて医学的な検査が必要と思えば選手には病院に行ってもらいます。面倒なことかもしれませんが、もし骨や神経などの異常を早期発見できれば良いことであり、正常であればトレーニングプログラムも組みやすくなります。選手がモチベーションを保つためには自分がどういうふうに変わっているのかが実感できること、自分の変化に気づくことですね。また、トレーナーのキャリアの引き出しの中にいっぱい詰まっていることを選手側が気づき、トレーナーもまた選手の可能性を発見することでチャレンジ精神に火がつきますね。

これまでの経験から、選手ってトレーニングの合間や休憩時間にふと本音を話すことがあります。例えば「引退しようかな?」って、ぼそっと言うんですよ。そんな時には「辞めたければ、辞めてもいいよ。また始めたくなればやればいい」って言うんです。土居さんの場合は怪我で引退となってしまいましたが、選手は大概低迷している時に弱音を吐いたりします。(辞めるとい表現も決してネガティブなこととして扱わず)「まだまだ(トレーニングで)できることがあるよ」と言ったこともあります。相手の話を聴いて(ただ単に)頑張れ!というのではなく、辞めてもいいし、続けてもいい、あなたの自由なんだよ…と主体を自分に持っていかせる。トレーナーとしての技量もありますが、相手の考え方に共感しながら傾聴することはとても大切な事だと思います。

Q:これまでの選手を観ていらした中で印象に残る運動能力を持っていた方を教えてください。

佐藤トレーナー:総合的に言うと、森田あゆみさんのコーチを長年務めた丸山淳一さんですね、彼は運動能力が非常に高く高校生の時によく私に勝負を挑んできていました。「佐藤さん縄跳びやりましょう!3重跳び何回できますか?」って。50回とか60回やって見せることもありました。いまだに会うと「佐藤さん今、何回できます?」って聞いてきます(笑)

全体的な走る、投げる、跳ぶ、リズム系など私の中で体力の5要素があるのですが、そういったものを当てはめると高校生の時の丸山さん、(以前担当していた)桜田倶楽部の中で言えば、辻野隆三さん、当時、鷹の台テニスクラブにいた横堀美紀さんは高い運動能力があったように記憶してます。現役では関西の竹内映二(竹内庭球研究所:ラボ)さんのところで、練習している清水悠太選手(三菱電機)は印象に残っています。

私が大学在学中、世界選手権で活躍する剣道やオリンピックでメダルを獲得した柔道の選手などと同じクラスでした。彼らは陸上や水泳の授業の単位取得にはかなり苦労していましたが、専門の競技に関しては能力が突出していて、その世界ではトップアスリートなんです。多分、幼少時に経験していなかった事が原因で、もしやっていれば、別の競技でもそこそこの選手にはなれたのかもしれません。先日の「修造チャレンジ」ではフィールドテストの映像をジュニアに見せながら説明しました。そこで明らかとなったことは、錦織選手や西岡選手よりも高い数値を記録したジュニアがたくさんいたことです。

Q:それは意外です。錦織選手や西岡選手は運動能力も高いと思っていました。

佐藤トレーナー:そうすると子供達は「えっ?俺の方が錦織選手や西岡選手より足が速いんだ!」と。それは自信を持って良いことだと思うんです。しかし、それだけではテニスという競技は勝てないよね?と問いかけ、強くなるためには、勝つためには、何が必要なのか?ジュニアたちの気づきから新たな方策をみつけるきっかけにしています。



1999年から「修造チャレンジ」のトレーナーとして協力している佐藤雅弘氏。写真は2002年の修造チャレンジのもので、写真中央にはまだ12歳の錦織圭がいる

Q:日本人がグランドスラムの2週間を戦えることについてトップレベルとの違いについての見解をお聞かせいただければと思います。

佐藤トレーナー:西岡選手についてはそのレベルの中で戦ってきている期間も含め必然的に体力養成になっている部分は大きいと思います。これからそこを目指している選手は予選をクリアするための1発勝負的なところがあり、準備ができていないことがほとんどだと思います。目標を2週間戦えることという高い目標をいきなり立てても、先ずは予選をクリアしないといけないことも理解できますが、本戦に上がって最低1回、2回と勝つための最低限の準備をリカバリーも含めた自分のコンディション(コーチやトレーナー任せではなく)しっかり把握していく必要があり、日常の行動に出せるのかというところが上に上がっていくためのひとつの要因になると思います。

Q:トレーニングで追い込むこともタイミングの難しさがあると想像しています。

佐藤トレーナー:それは、選手のタイプによって違いがあります。自分が見てきた選手の例で言えば、奈良くるみさんに帯同した際、トーナメントの早い段階で負けた場合、次の試合まで約7~10日間あることもあります。彼女の体力回復に要する期間は最低3日間を必要としていました。そのため試合の始まる4日前までには身体にガソリンを入れるような感覚で刺激を与えていました。(ヘビーウエイトtr)回復状況と反応を見ながらその質量を決めていきますが、奈良さんの場合は目安としてオンコートでの「躍動感」で判断しています。キレが悪くなってくると刺激を入れて、「筋肉の反射」を良くして躍動感を出していきます。どちらかと言えば持久系なのでスピードと持続力の継続性をメインにしていました。一方で土居美咲さんは、パワー系種目をメインに、「力でのパワー発揮」と「スピードでのパワー発揮」での種目を導入していました。二人に共通して言えることは、試合期であれば自分のプレー・スタイルに応じた「テニス体力」がコート上でしっかり発揮できているかどうかをチェックしていました。


現役時代の奈良くるみの場合、試合の4日前までには、重い重量でのウエイトトレーニングは終わらせるようにしていた。

話は変わりますが、私のところでトレーニングを学びたいという若いトレーナーが来ることがあります。理論も勉強していて、いろいろ資格も持っている方でしたが、実技ということでトレーニング機器が無い状態で、コート上にあるものを何でも使用していいから「この子に対して適切なトレーニング指導をしてもらえますか?」と言うと尻込みしてしまうんですね。トレーナーとして「アレンジ」が利くかどうか、対象となる子の身体特性等を見て判断し、その場に応じた適切な指導ができるかどうかはとても大事なことです。

トレーニング機器については、欧米ではトレーニング機材を開発するのが上手い。日本人はそれをすぐに使って、どうすれば速くなるとかといった活用や応用をすることに長けているような気がします。私も昔「ラダー」というのを工事用の黄色と黒のロープを買ってきてゴムのバントをホッチキスで止めて子供たちにトレーニングをさせていました。当時、あるトレーニング機器の販売会社の方から「アメリカからスピードトレーニングのコーチを呼ぶので見にいらっしゃいますか?」と誘われていった時にラダーとかバイパー(チューブ)とか様々な機器を紹介していました。テニス界で今では、定番となったラダートレーニングは、ラダーにおけるスピードの向上とテニスの動きに連携されることが大切であり、コート上での動きに反映されているかどうかを確認してほしいものです。トレーナーは、それを現場でしっかり活用し、スポーツ科学者や機器開発者とをつなぐ橋の役目をしなければなりません。


アメリカ・インディアンウェルズに中村藍子の帯同した際、会場近くの芝生にてパワートレーニング(バウンディング)を指導する佐藤雅弘トレーナー


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