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2023.11.21

選手情報

土居美咲らトップ選手を指導してきた佐藤雅弘トレーナー、終わりがないトレーニングも「1からきっちり段階を踏む」[後編]

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Q:先ほど仰っていた「テニス体力」というのを言語化するとどのようなものでしょうか。

佐藤トレーナー:100メートルや400メートル、長距離を走る能力ではなく、テニスでは約1ポイントの平均移動距離が約6~10メートルの距離、コートサーフェスによっても違いますが、1ポイントに要する平均時間が8~15秒、サービスダッシュを行って2、3秒で終わるポイントもあります。ポイント間が25秒、チェンジコートが90秒ある中、コート上において、自分の出力がいつでも100%出せる状態において、そこで上がった心拍数を25秒間で心拍数を140ぐらいに戻して、再び180〜200ぐらいに上げたとしても、コントロール出来る体力、これを3セットマッチ、グランドスラムであれば5セットマッチのファイナルセットになって動きの継続、ショットの精度が下がらないというのが、「テニス体力」の評価になります。

Q:佐藤トレーナーの考え方の基盤になっているところがあれば教えてください。

佐藤トレーナー:以前「幼児体育」の指導をしていた時期があります。具体的には幼稚園の正課の教育で3~5歳児が対象のクラスでした。それまでもジュニアや学生をやっていたので幼稚園生だから簡単に指導できるだとうと思って行ったら真逆でショックを受けました。特に年少(3歳児)は全然言うことを聞いてくれないんですね。その日は年小・年中・年長の各30分づつの指導だったのですが、ものすごく疲れて帰宅したのを覚えています。それから「あの子たちはどうやったらこちらに興味をもつのだろう?」というところから入りました。保育士さんに「どうやったら子供たちが集まるのですか?」と聞いてみました。「さんかくおやま」と言えば体育座りをしてくれます、そんな幼児たちの「共通語」を聞くところから始まり、正課の教育の他に募集して「体操教室」へと発展していきました。夏は新潟の越後湯沢にキャンプに連れて行って、冬は福島にスキーに行ったりしました。

また狛江市の体育館では高齢者向けの「健康体操」もやったりしていました。競技の方をやっていたので自信があったのですが(常識が違いすぎて)頭を撃ち抜かれました。高齢者にはどういう体操をやればいいのか?「楽しい、またやりたい」といってもらえるように工夫しました。この2つは自分の原点になっているかと思います。

強化の方は少しでも強くなりたいというのがモチベーションとなっていますが、一般の子たちの興味づけだったり高齢者の健康であるために、というところが基本になり自分のベースとなっているところです。

Q:佐藤トレーナーは後進を育てるご活動の予定はございますでしょうか。

佐藤トレーナー:過去には研修生制度を設け指導していました。解剖学等と実技も含めてやっていました。今は制度的なものは行っておりませんが、不定期ではありますが研修を受けに来ている指導者はいます。現在、私はコンディショニングトレーナーの小谷奉弘氏(コタニ・トモヒロ)とタッグを組んでプロ選手、ジュニア選手、チームの現場にて、競技専門コーチ、ストレングスコーチ、選手とより効果的な身体の使い方、より効果的な強化方法を協議しながら進めています。

小谷さんは、AT、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ師などの国家資格を有しており、お互いの良いものを共有して選手をサポートしていくようなシステムを構築しています。最近はコーチとの共有もあって、身体の状態からこの選手はこういう方針の練習でいこうとか。ケアの方で「ここを調整したので佐藤さんはもっと(トレーニングで)刺激を入れてください」というような具体的なやり方について工夫しながら強化を進めています。

Q:以前よりももっとオープンになってきた印象を受けました。本気で成長を進めていく中でお互いの意見がぶつかるようなこともあったのではないかと想像していますがいかがでしょうか。

佐藤トレーナー:今の例で言うと一番衝突するのはコーチとの意見です。以前の例を参考に挙げると土居さんの場合はオリンピックシーズンは強いんですよ。2度オリンピックに出場していますが、最初のリオデジャネイロ五輪へ出場の際、コーチがスケジュールの中で「オリンピックとグランドスラムはどちらが優先なんだ?」と聞いていたんですね。オリンピックはポイントも取れないし賞金もないので、グランドスラム中心に考えた方がいいのではないかと土居さんに言うのですが、彼女は4年に1度のオリンピックに出たいとモジモジしていたところ「出たいんでしょ?美咲ちゃん」と聞くと、「出られるものなら出たい」と本音が聞けたところで、通訳を通してコーチから「佐藤はどう思う?」と聞かれたので「グランドスラムが大事なのはもちろん理解している。4年に1度のオリンピックに出れるチャンスを掴みとった美咲ちゃんの要望も叶えられるように、スケジュール調整して参加させてやろうよ」とコーチには伝えました。

もう一つの例はトレーニング合宿が続いてくると選手がイライラしてきたりすることもありました「佐藤さんもこのトレーニング一緒にやるんだよね?」と機嫌の悪さや感情をぶつけられるような小さなことはありましたが大きな問題はなかったように思います。



硬い信頼関係で結ばれているからこそ、時に選手と正面からぶつかり合うこともあるという

Q:子供から選手やお年寄りの方々へも幅広くご活躍されている今後の佐藤トレーナーのご活動のご予定を教えていただけますでしょうか。

佐藤トレーナー:これまで選手に関してはオファーがあってやってきました。タイミングが合って紹介してもらい現在の対象の選手がいます。(今後もその流れは変わることなく)実際のトレーニングで現場の様子のやり方をみてテニスクラブの方に指導をお願いされたりリクエストにお応えすることもあります。

過去には日本テニス協会の中に「Gプロジェクト」というリオデジャネイロ五輪ダブルスで金メダルを獲る事を目標としたチームがあり、ホームコーチ、ナショナルコーチ、トレーナーが協力して海外を転戦していました。(今思えば)その形は面白い取り組みでした。その時の対象の選手が16〜17歳だったんです。二宮真琴選手、加藤未唯選手など現在も活躍している選手や澤柳璃子選手、引退した尾﨑里紗さんというメンバーで一緒にオーストラリア、中国からカザフスタンなど遠征に帯同していたことを思い出します。今はスポットでサポートという形も増えてきています。

その時にやったプロジェクト(Gプロジェクト)で種を蒔いて育てる行動を起こした後に何年後かを振り返るとやっぱり「実」になっている。「修造チャレンジ」も始まった当時はすぐに崩壊するだろうとみんな言っていました。修造さんがどんなに頑張ったって世界に通じるはずはないと。でも錦織選手を始め、次々と選手が出てくると「成功すると思っていた」という評価に変わる(笑) ただチャレンジしている時って面白いなと思うんです。人間ってものに向かっている時ってメンタリティーもその時は成果がないんだけど「夢」がそこにあって、そこがモチベーションになっているんですね。今、これをいかに充実したものにするか、ということと、それには意味がある「こんなことがあったら面白いなぁ」というワクワク感とか、それは厳しさとか辛さとか苦痛も伴うかもしれないけれどそれを上回る達成感が見えている時って人間は“輝く”のだと思います。

Q:「トレーナー」という職業が認知されていなかった時代に佐藤トレーナーは先駆者的な存在だったように思います。選手のサポートに留まらず、子供から高齢者まで関わっていらっしゃる人間的豊かさやを感じました。

佐藤トレーナー:以前はVHSの時代にトレーニングをまとめたものを出したり、本も出したりしましたが(時代が)早すぎたように思います。現在もアレンジは加えていますが、その当時にあるものはベースとなっています。

過去には全日本選手権の際に「ミズノ」さんに企画書を持ち込んでみました。「コンディショニングの普及活動」は面白いねと言ってもらい契約後に全国で「コンディショニング講習会」をさせていただきました。ミズノさんから全国のテニス協会に連絡をしてもらい約10年間ぐらい続きました。当時はインターハイなどの会場も行きましたが、ほとんどコンディショニングをやっているところはありませんでしたが、現在ではケアトレーナーやトレーニングコーチは当たり前という時代になりましたね。その現場を見ていると10年かかってようやくここまできたのかなと思うところです。

Q:今回はトレーナー業界を目指している皆さんにも指針となるようなヒントを含めたくさんのお話を伺うことができました。ありがとうございました。



ジュニア時代の二宮真琴や加藤未唯らの遠征に帯同した佐藤雅弘トレーナー



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