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2024.02.26

選手情報

錦織圭らを指導した米沢徹コーチに聞く「トップにいく選手に共通すること」【後編】

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――ご苦労も多い中でジュニアを育成する情熱や継続していく意志の強さはどこからくるのでしょうか。

「ただ単純に“テニスが好き”なんですよ。私が小学3年生の頃、壁打ちを何時間やっていても飽きないし好きなんですね。現在も毎日コートにいますが、8時間でも10時間でも居ることが楽しいんです。コートの横で座って練習している様子を見ることも、ボール出ししている時も、一日中テニスコートに居ることが。歳を取ってくると、より一層にみんなに頑張って欲しいという気持ちになっています。やり甲斐もありますし、やることがいっぱいあります」

――現在の日本男子のテニスが世界に通じている要因のようなものを米沢さんはどう感じていらっしゃいますか。

「圭が出てきたことによって『自分もやれるんだ!』というところが一つの転機だったように思います。それまでは『グランドスラムに出られればいいな』の感じでした。それは野球も然りで、向こうの人と戦えるようになったらすごいね!でした。彼(錦織)が出てきてトップとやり合って勝ったり、日本の選手達と錦織が練習する機会もあると『世界のトップはこういう感じ』というものが他の日本人選手達もわかるようになります。自信とともにある程度の目安がわかるようになれば、実際にコートに立って対戦するときに『すごい選手と試合をする』というより、この選手とこうやって戦っていこうという作戦を立てて臨んでいる。そこが一番大きいのではないでしょうか。もちろん、それぞれの選手の努力というのは半端なものではないと思います。日本のコーチ陣も海外のコーチに比べると勤勉で、おそらく倍ぐらい日本人のコーチは働いていると思います。必要なことはマスターするし、勉強熱心で昔に比べても選手だった人がコーチをするようになってきたので、自身の失敗も踏まえながらのコーチングもされている。コーチのレベルも上がっていて、選手も何をしたらいいのかというのが明確になってきていて“無駄な努力”ではなく必要なことをやれる状況が揃っていることの積み重ねではないかと思っています」



――以前、IMGアカデミーにてプロの練習等を見ていて、その人の強みにつながる体の動きやウィークポイントを観察しても違いが分からないことを米沢さんにご質問したところ「良いものをいっぱい観ること、それに触れることです」という回答をいただきました。その時は納得しましたが、いっぱい観ているつもりでも感性がひらいてこないと知覚できないのではないか?と感じていますが、プレーの良し悪しを見極めることができるポイントのようなものはありますでしょうか。

「これは難しい質問ですね。私自身もテニスに半世紀以上携わっているので(自然と理解できる)親しいコーチと話していて、私が『この子いいよ!絶対に上手くなる』と言っても『あぁ、そうですか…』という答えが結構返ってきたりしますね」

「結局は感覚によるところが大きいので難しいところですが、一番わかりやすいのはその選手のプレーを見ていて楽しいかどうか、ですね。これは一生懸命ミスをしないようにプレーしているということではなく、例えばフェデラーのプレーを見ていると楽しいですよね。ジョコビッチもじっくり観察していると将棋を指すようなテニスをしています。“見ていて飽きない”というのがポイントになります」

「普通の試合をテレビで観ていても、どんな選手かな?という感じで我慢して見ていることの方が多いんです。面白くないものは面白くないので飽きがくるんですね。それは年齢やレベルに関係なく見ていて面白いし、時間を忘れて見てしまう。それが答えです」

――ともすれば、飽きてしまう原因を選手と照らし合わせて修正をかけていくことで、きっかけの芽が出てくるということでしょうか。

「見ている人が楽しいと思うテニスを目指す。そのベースには“エラーしない”ラリーが続くということがボトムラインにあり、そこを外したらいけません。音楽であれば音程を外さない、アナウンサーであれば言葉に詰まらないような流れる喋りがある。ベースがあるからこそ、『ここでああする、こうする』が楽しい。中には(観戦していて)眠くなるのもあります。面白い試合というのは、観戦する側もゲームに入り込んでしまいます。そこがテニスの楽しいところでもあり、芸術的なところです。スポーツというのはそういうもの。抽象的な回答かもしれませんが…」

――強固なディフェンスがあってのオフェンスの必要性を感じました。

「どのスポーツでも大事なことです。派手なところではなくディフェンスで観客を沸かせる選手は見ていて楽しいですよね」

――ディフェンス能力を元々持ち合わせている選手は強いと思いますが、それを持っていない選手はどういう練習や取り組みがありますか。(ボトムがなく)攻めたい、とかバラエティをつけたがる傾向にある選手にコーチとしての向き合い方などありますでしょうか。

「錦織とやっていた練習で地面すれすれのところまでラケットを滑り込ませてアンダースピンをかけて返球するという練習はよくしました。それも一つの大事なテクニックであり(ディフェンスが強くなる)ポイントです。スペースがあるのに滑り込むことを諦めてしまう子はいっぱいいます」

――諦めてしまう子には厳しく言えない時代でもあり、また褒めながら育てていくことに関して、モチベーションを高めるために現場でできることはありますか?

「私のところに来てくれる子は、早く諦めている場合には『論外だ』と厳しくしていますし、その方が本人も喜びます。私は一日中、怒鳴っていますよ(笑)甘く見られているのか、優しいと思われているようなので。毎日言って、2年後に動き出したということもあります。『相変わらず変わらないなぁ』と言いつつ、時間が経過すると変わることもあるとうれしいですよね」

「ジュニアが上手くなるには時間がかかり、子育てと一緒だと思っています。いろんな子がいて、自分の子供ではないのにこんなにいっぱい(子供達が)いるというのは楽しい仕事、立場だといつも思います」

――今後についての「TEAM YONEZAWA」について教えてください。

「これまでたくさんの方々に支えられて現在の活動が成り立っています。これまで携わったジュニアがトップに行かなくともその次の世代へテニスの輪が広がって欲しいと願っています。まだ若いつもりでいますので遠征も継続していければと思います」

――貴重なお話をありがとうございました。

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Photo by Tennis Classic