close

2020.01.23

メーカーズボイス

#アルパワー史上最強説 「ルキシロン・ショット」の誕生 1997年6月8日

1997年6月8日、全仏オープン決勝 その試合は、歴史の転換点だった

「ストリングが新時代を作った。極端な話、何時間打ってもミスが出づら くなった。あれは、テニスの可能性が広がった瞬間だと思う」



グスタボ・クエルテン(ブラジル)の言葉である。1997年6月8日、この日、20歳だった“グーガ”は、セルジ・ブルゲラ(スペイン)を6-3、6-4、6-2のストレートで倒して、全仏初優勝を成し遂げた。得点を積み重ねていく形式のテニスは、番狂わせが起きにくいスポーツだと言われる。しかも当時、クエルテンのランキングは66位。ATP大会出場は、19大会しか出場しておらず、優勝はチャレンジャー大会で一度だけ。そんな選手が、優勝を果たしたのだから、「Unexpected Winner(伏兵優勝)」「The most surprising champion(最も衝撃を与えた覇者だ)」と報道されても無理はない。
今、振り返ると、あの優勝は、テニスの歴史が変わる転換点だったと言える。 何が変わったのか? プロにルキシロンのポリエステル・ストリング「アルパワー」が浸透するきっかけになったのだ。

進化するラケットに対しての答えがなかった その中で登場したクエルテンと救世主

ただでさえ「フェイスサイズが大きくなっていき、どの選手もパワフルなショットを打つように変化していた。明らかにゲームに変化が起きていた」(アンドレ・アガシ/アメリカ)時代、その中で、グーガは『ルキシロンのポリエステル・ストリング』という武器を得てプレーしていた。テニス・ラケットに張るものは、長らくナチュラル(ガット)が主流だったストリングだが、そこにシンセティック・ストリングが登場。それでも、進化するラケットに追いついていない状況だった。それはヨナス・ビョークマン(スウェーデン)の「(当時)より良いショットを打つために、スピード重視にするか、スピン重視にするかの二択しかなかった。どちらもアップさせようとすると、ミスをするリスクが高まるからだ」という言葉からもわかる。



そんな中、彗星のように現れたのがクエルテンだったのだ。長身で細身、その体から放たれる強烈なショット。そのプレーに対して、息を飲んで見守ったのは観客だけではない。未知の軌道を見せるボールにプロたちも驚いていたのだ。かつてのトップ10選手、アメリカのトッド・マーティンも、その時のことを「『8フィート(約244cm)くらい、オーバーしそうだ』という打球がコートの中に落ちるのだから驚きだった」とコメントしている。それまでの常識では考えられないスピードとスピンが効いたボール。とりわけ『回り込み逆クロスのフォアハンド』は、驚くべき軌道だった。普通ならサイドアウトする速度のボールが、ネットを越えて“ストン”とサイドライン手前に入るからだ。

イギリスの『TIME』誌が取り上げるほどの話題となった『ルキシロン・ショット』

そのショットのことは後に、イギリスのニュース雑誌『TIME』の中で、「ルキシロン・ショット」として、下記のように紹介されることになる。

――プロ選手たちは、それを「ルキシロン・ショット」と呼ぶ。あなたも耳にしたことがあるかもしれない。唸りを上げて飛んでいくボールで、致命的なほどのトップスピンがかかっている。ショートクロスに打たれたボールが、直線から曲線へと急変化してコートに落ちる。元プロのスコット・マケインコーチは「まるで卓球のような変化だ」と語っている。そのボールは、1997年全仏でクエルテンが、モノ構造のルキシロンのポリエステル・ストリングで打ったものである
――<原稿は『TIME』誌の記事の翻訳>



プライベートストリンガーとして有名なネイト・ファーガソン(プライオリティー・ワン。フェデラーらのストリンガーとして有名)は、「ルキシロンが、試合を大きく進化させることとなった」と語り、ダレン・ケーヒル(イギリス、現ハレプコーチ)は、「あのころから多くのプレーヤーが、コート後方にポジションを取り、大きなスイングでボールを叩くようになった。同時に、ネット・プレーヤー不遇の時代は始まったんだ」と振り返る。
97年全仏優勝時、クエルテンはルキシロン「オリジナル(1.30mm、57ポンド)を張っていたが、すぐに「アルパワー(1.25mm、40ポンド台後半~50ポンド台前半)」に変更。2000年、2001年にも全仏で優勝を果たしている。余談だが、クエルテンは後に「ちょうどこのころ、ポリ・ストリングがフィットしないアガシが『ATPが使用を禁止にすべきだ』と文句を言っていたよ(笑)」と暴露している。

なぜ、プロがこぞって「アルパワー」を使うのか?
それは、アルパワーだからこそその性能があるからだ



ルキシロンの『アルパワー』がツアーを席巻しはじめたのは、ちょうど21世紀を迎えるころから。人気の高まりを見て、他社もポリエステル・ストリングを作るが、現在まで、そのシェアは揺るがずにいる。なぜ、それほどまでに『アルパワー』が選ばれるのか?
LUXILON ALUPOWER普通、ボールを捕らえるとストリング面は全体がたわんで戻る。ところがルキシロン社のポリは違うのだという。スイング速度が速いプレーヤーだからこそだが、ボールを捕らえた際、その周辺のみが凹んで戻るのだという。これがアルパワー独自のパワー、ホールド感、そして大きなスナップバック(インパクトの際、縦糸がズレて戻る動きのこと。そのズレ幅の大きさ、戻る速度の速さで回転数が決まる)が生まれる秘密である。だから、スピードとスピンが両立するわけだ。前回もご紹介したとおり、ツアーの中でルキシロン『アルパワー』は、今なお最も使用されているポリエステル・ストリングである。実は、あの選手も、あの選手もという状態で、自分でお金を出して購入しているプレーヤーも数多いのだという。製造の過程でアップデートが行われていることはもちろんだが、20年を経てもシェアがゆるがないというのは、それだけルキシロン社のクオリティーが高いからと言える。





★[Wilson Web Magazineバックナンバー(2011年1月号~2020年3月号)]

https://wwm.tennisclassic.jp/archive/backnumber/index.html

関連する記事RELATED