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2021.08.27

選手情報

東京パラリンピック車いすテニス代表・荒井大輔選手インタビュー 大会直前の父の死を乗り越えて初出場のパラリンピックに挑む。最後まで諦めないプレーで見ている人に感動を与えたい

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得意のバックで相手を追い込み、
チャンスで仕留めるテニスを目指す
「最後までボールを追いかける姿勢や気迫を見てほしい」

――2017年から海外転戦をスタートされたと思いますが、この頃から世界を意識するようになったのでしょうか? または、車いすテニスを始めた当初から、世界を意識して競技に取り組まれていたのでしょうか?
始めた頃は世界をまったく意識していませんでした。諸石さんからは、一緒に東京でやろうとずっと誘われていましたが、世界を視野に入れることはなかったんです。でも、続けているうちに徐々に世界を意識するようになっていきました。’17年に初めての国際大会となるオーストラリアの大会に出場した際、リオパラリンピック銀メダリストのアルフィー・ヒュウェット(イギリス/同2位)と対戦したのですが、その時に試合には勝てなかったものの、やり方次第でもっと上にいけるのではないかと思い、世界を意識するようになりました。

――海外遠征を通して、何か意識や技術などで変わったことはありますか?
海外旅行はもともと好きでバックパッカーをやったりしていたので、昔も今も海外遠征は大好きです。ほかの人よりも、デメリットに感じることが少ないというか、ストレスなく遠征することができていると思います。海外の選手とルームシェアしたり、楽しんでいますよ。でも、海外の選手は私たち日本人と感覚が違って、大音量で音楽を流したり、服を脱ぎっぱなしにする選手もいたりします。とはいえ、自分も大雑把な性格で、逆に日本人といると気をつかうので、海外の選手といるほうが楽かもしれません(笑)
テニス面ではいろいろなプレースタイルの選手がいます。車いすテニスはまだまだ発展途上のスポーツだと思っているので、何でもアリなんだなと感じました。いろんな打ち方もあれば、車いすを漕ぐ方法も実にさまざま。車いすにもさまざまな種類があります。そういうことを見たり、知ることができるという意味で、海外遠征はおもしろいかもしれませんね。日本では経験できないプレースタイルの選手と対戦することができたのはよかったです。



――大会に臨むうえで大切にしていることは何ですか?
「いちばん上、トップにいく」「優勝するぞ」という“気持ち”ですね。どの大会でも一緒ですが、優勝するとその大会でいちばん強いということになるわけですよね。だから、優勝した時の感覚は最高です。ここにいるメンバーの中で、俺がいちばん強いんだって。どんな大会でも、その気持ちを持って試合に臨んでいます。

――車いすテニスの見どころはどんなところだと思いますか?
車いすに乗っているので、ボールを取れる範囲が狭いと思うかもしれませんが、実は結構広いんですよね。2回バウンドするまでプレーが続くので、めちゃくちゃコートの外に追い出されることもあります。また、車いすで移動するので動きが遅いと思いきや、加速するとめちゃくちゃ速く移動できたりする。ほかにも、ターンしてどちらに回るのか。チェアワークが入ることで硬式テニスとは動きが全然違うので、その点はおもしろいところだと思います。

――目指しているテニス(プレースタイル)はありますか?
私は、ボレーで決めたりするような器用さはあまりないので、得意のバックから展開して相手を追い込み、そこから生まれたチャンスの場面でどれだけさまざまなバリエーションで決められるか、ということをベースに考えています。バックでどれだけ負けないレベルまでいけるか。そのラリーの中で相手が逃げたときに、次のボールで仕留められるパターンをたくさん持てるようにしたいですね。



――練習拠点を吉田記念テニス研修センター(千葉県)としている荒井選手は、国枝慎吾(ユニクロ/同1位)選手と練習する機会もあると思います。国枝選手から学んだり、すごいなと感じるところはありますか?
守備範囲がとても広くて、どこに打っても取られてしまいますね。“そこも取ってくるのか!?”って。どこに打っても決まらないんです。そして、返球も正確で、チェアワークがすごい。車いすを走らすテクニックも速いのですが、それ以上に予測が優れていて、ターンなど滑らかでスムーズなんです。私はまだ無駄な動きが多くて、止まってしまうこともありますが、国枝さんはそういうことがほとんどありません。だから学ぶことはたくさんありますね。

――パラリンピックの出場が決まった時は、どのような感想を持ちましたか?
出場が決まった時は、周りは全然信じていなかったですね(笑) 自分でも選ばれる自信はそれほどなかったので…。ただ、出場が決まっても、私の姉や父は厳しいんですよ。出場しただけで満足するなって。嫁からは「おめでとう」と言われましたが、父や姉からはいまだに一度も言われていないかもしれないですね、本当に厳しいんです(笑)
実は、その父がパラリンピックの開会式前日に亡くなりました。調子が上がってきたところだったので、最後に厳しい試練を与えられたのだなと思いました。それと同時に、「調子に乗るなよ、頑張れよ」というメッセージでもあると思い、気合いが入りました。パラリンピックは初出場になりますが、あまりプレッシャーなどは感じていなかったので、そうしたことを正されている気がして、最後まで厳しい親父だなと思いました。

――お父様もきっと天国で見てくれていると思います。試合が終わったら荒井選手になんと声をかけてくれると思いますか?
試合に勝ったら、「前より少しはマシになったな」と言われると思います。一つ勝っただけならそれくらいじゃないでしょうか。メダルを取って、初めて褒めてくれるくらいだと思います。いつまでたっても厳しい父なので。まぁ、メダルを取っても褒めてくれるかどうかも分かりませんけれど(笑) 最後に認めてもらえるよう頑張ります!




――いよいよ始まる東京パラリンピックに向けての抱負を教えてください
テニスだけでなくて、仕事も通して目標としていることが、障がいを持っている子どもたちもそうでない子どもたちにも、何事にもチャレンジするきっかけを与える、ということです。チャレンジする姿勢や最後まで諦めずにプレーすることで、感動を与えたり勇気づけられることができればいいなと考えています。試合での勝ち負け以上に、その点が重要な部分ではないかと思っています。私はキレイなテニスをするほうではないので、テニスのスキルなどではなく、最後までボールを追いかける姿勢や気迫を見てほしいですね。
車いすテニスとしてはもちろん、一つのスポーツとして試合を見てもらった人たちを勇気づけられればと思っています。あとは、楽しんでプレーしたいと思います。



【東京パラリンピック】荒井選手が出場する種目のドロー(組み合わせ表)はこちらをチェック!

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取材・写真=長浜功明