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2022.09.09

ジュニア選手

桜田倶楽部・渡邊大輔コーチに聞く「日本人がトップに行くには、経験値、センス、アイディアが大切」[USオープン]

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日本で世界を目指す環境が作りたい

昨年の全日本ジュニア16歳以下、Yoshis CUPなどで優勝と結果を残した松岡隼(桜田倶楽部/ITF世界ジュニアランク48位)は、今シーズンに入り、世界の舞台に積極的にチャレンジ。ウィンブルドンに続いてUSオープンでも本戦入りを果たした。結果は1回戦敗戦となってしまったが、グランドスラムで経験した1試合の経験は小さくないはずだ。

【表】ITFジュニアトップ100に入っている日本人選手(9/6現在)がこちら

今回、そのコーチとして帯同していたのが、桜田倶楽部東京テニスカレッジのヘッドコーチ兼マネージャーを務める渡邊大輔氏(予選に参加した三好健太/ジュニア同83位のコーチでもある)。試合後、時間をいただいて日本のジュニアが世界で活躍するための意見を伺った。

Q.試合は終始相手のペースで展開されて、松岡選手の良さが出せない試合となりました。

「グランドスラムの本戦出場はウィンブルドンに続いてなので2大会目。しかし、まだ地に足が着いていない感じがありました。今回は同じストローカータイプではなく、高身長を活かしたサーブを打ち、積極的にネットプレーに出てくるというあまりいないタイプの相手でした。もちろん相手も良いボールを打ってくる。それに対しての予測や技術、工夫といったところが足りていないなと感じました。そのへんは課題ですね」

Q.こういった試合のあとは、もっとプッシュすべきだとか、もっと自分を尊重すべきだとか、選手にどんなアプローチをするのでしょうか? 

「まず試合直後に、何かを注入しても効果は得られません。本人が落ち着いてから、今日の試合で何か起きたのかを検証し、今取り組んでいる方向性をしっかりと確認し合うようにしています。この舞台までは勝ち取ってきているわけですから、自分を見失わないようにさせる事が大事。選手が1つのテーマやステージを克服するには時間がかかり、辛抱や困難も必要になりますが、コーチとはそういう仕事です。
最終的には、コート上で選手自らが問題を把握して対応することができるようになっていかなければなりません」

Q.日本のジュニアの技術は、世界と対比してどのように感じていますか?

「単体で見れば悪くはないとは思います。ただ、この舞台でやりたいことができることが“技術”と呼ぶのだと考えています。相手に応じて、必要性に応じて、いかに対応するか? 西岡良仁(ミキハウス/同55位)や錦織圭(ユニクロ/同370位)といった選手たちはそれができるから、世界で戦えているわけです。ジュニアでも18歳の時点で、どの程度できるのかが一つの目安になります。(現在17歳の)松岡もそれにチャレンジしていますが、現状では足りていない。メンタルでも語学でも考え方でも、いろいろなことに慣れて初めて力を出すことができるので、あと1年間でどれだけ力を付けることができるかは楽しみです。

個人的に思うのは、コーチの重要性です。世界に挑戦するにあたり、日本基準のテニスと世界基準のテニスの違いを理解できているのか? そもそもゲームの根底が違いますし、サーブやパワー、そして考え方一つを取っても違うスポーツだと考えています。

日本での実力=世界の実力で、結果が出せれば一番良いですが、すぐにはならない。世界の舞台に立って、強豪選手たちと日常的にやって生き残れる選手だけが、西岡選手、錦織選手たちがいる世界に行けるわけです。誰もが行ける世界ではない。本人の意欲と意識、覚悟、その継続性が必要です。とはいえ、世界で頑張っているジュニアもツアーを回るようになって、全部がパーフェクトにできているとは思いません。その選手たちを超えていくために、試合での経験値を検証しながら次のステージに備えるようにしています。

仮にジュニアのトップになったからといっても、今度は一般の世界において、何を強みとし、何が課題かということをコーチと見極めて正しいアプローチをしていくこと。それを2年、3年と継続して取り組めるか。幾人かの海外選手のように、若年時から絶対的な素質を持つ選手はそうはいないので、経験値、センス、アイディアというものが大切になってくると思っています」

Q.日本人選手の持つセンス、アイディアというのは通用しうるものということですね?

「もちろん、通用するとは思います。しかし、砂入り人工芝コートでのプレーが多く、国内のトップ大会ではいつも同じメンバーと戦うことにもなる。それでは通用するのか答えがわかりません。国内では試す場が十分ではないのです。例えば、松岡が今日の相手にどうリターンするか、ファーストセットを落としたあと、どう尻尾を捕まえて、巻き返していくか、そういう過程が大切。試す場が必要ですし、この舞台でそれができなかったら、プロになってできるわけがない。そこは国内での課題だと考えています。

ただ、国内を軽視すべきではありません。松岡も昨年、全日本ジュニアの16歳以下で優勝していますが、日本で勝てなかったら世界で勝つことなんてできない。国内で一番にならないと無理とは言えませんが、国内を軽視すべきではない。日本の選手も十分競争力があります。そういった中で、海外という経験も必要になるのです。

また日本の現状を鑑みると、18歳から22歳にかけて大人の世界に立ち向かうことになります。そこに向けてどういうスピード感で、どんな練習をしていくのかといった蓄積がありません。選手個々で見つけていくしかないのです。もっとみんなで協力することで、そういったことが促進する可能性があると思います。それというのも、下部ツアーへのチャレンジで時間を費やしてしまって、その内にジュニアから積み上げたものが途切れてしまうというケースも多々見受けられるのです」

Q.桜田倶楽部では、今何人のジュニアを見ているのでしょうか? また将来に向けての思いを教えてください。

「育成コースに約30選手、低年齢に約15選手います。松岡はツアーチームプログラムに所属しています。様々な個性の子供達が成長していく中で、桜田倶楽部から世界基準の選手が飛び立つ仕組み、環境を創っていきたいです。
とはいえ口で言うのは簡単です。育成コーチを職業として成り立たせ、子供たちのバックアップをしていくためには、経済面がポイントになります。いろいろな問題の答えを探して、世界を目指す環境を作ることを目標に活動していきたいと思います」

Q.貴重なお話、ありがとうございました。




■USオープン2022
・大会日程/2022年8月29日(月)〜9月11日(日)
・開催地/USTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センター(時差13時間)
・賞金総額/6,010万ドル(81億7,390万円)
・男女シングルス優勝賞金/260万ドル(3億5,360万円)
・サーフェス/ハードコート(レイコールド)
・使用球/[男子]ウイルソン「USオープン・エキストラ・デューティ」、[女子]ウイルソン「USオープン・レギュラー・デューティ」

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写真=テニスクラシック