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2024.02.26

選手情報

錦織圭らを指導した米沢徹コーチに聞く「トップにいく選手に共通すること」【前編】

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――その過程で荒くなっている部分などをポイント的に選手にアドバイスを送るというような練習の進め方という事でしょうか。

「例えばエッグボールを打つ練習では、相手をベースライン後方に追い出すというポイント練習をやります。エッグボールからスタート!とだけ伝え、高い軌道でのラリーが始まると『もっと高く打て』『足を使ってジャンプする』とちょこちょこ言っていきます。それに取り組めば数ヵ月後には自然と身に着いていくような感じです」

――いつまでもアイディアがなかったらいつまでも自分の癖で打ってしまいそうです。

「弾道の高いボールを打つ練習やドロップショットなどパートごとに取り組んでいく練習はしています。それをやらないとポイントが取れない、ゲームに勝てないことが起こりますが、毎日やることでそれをやっていると誰でもできるようになっていくものです。ど素人でもドロップボレーでポイントを取りに行く練習をしていれば、“感覚”なので、そのフォームで入ればそれが正解でラケットにボールが長く乗ってスライスをかけられれば完成となります」

――選手が「コーチからもっと教えて欲しい」という考えが強い場合、伸びにくくなるのでしょうか。

「ボールを出して感触を確かめたりはしますが『1から10まで全部教えてほしい』という選手は伸び難い傾向にあるように思います」

――「教わろう」というのではなく、自分で掴んで高めていく中で少しのアドバイスを受ける選手の方が伸びると。

「アドバイスもありますが、練習ではすべてのショットの球出しをよくやります。例えば、ショートクロスから始めるポイントだったり、高いボールや打ち込みから入るものもあります。どのスクールでもやるパターンですが、それを磨き続けている間にそのショットは自分のものになります」

――それにヨーロッパやフロリダ遠征があると経験もプラスされると。

「それを使って試合をするので、普段の選手が相手でも良いし、それが外国の選手だと尚更、上手い下手は関係なく刺激があります。外国に行けば良いということでなく、日本でも相手の選手が動いてくれるので海外に行っても行かなくてもやることは一緒です。それが体格もテニス自体も違う海外で使うとなれば、『なるほどこうやってポイントが取れるのか』となり、自分のものになる。さらにそれを高めていこうかというふうになります」

「ただ、いろいろできるようになって素晴らしい選手になっても大きくなっていくと“サーブとフォアハンド”でポイントが終わってしまうんですよ。圧倒的なアドバンテージが外国人選手にあることは事実で、そこで対抗しようとしてもアジア人は敵わない。錦織選手のようにタレントのある選手は頑張れるけど、西岡良仁選手だって必死に努力し、違う部分で頑張っています。それは並大抵の努力ではないと思います。海外の選手に比べ、日本の選手はその何倍も努力しなければならない。ロジャー・フェデラーにしても、ジョコビッチにしてもそうですが、彼らに追いつこうとするとその何倍も努力していかないといけないことは事実で、錦織選手や西岡選手がそこに辿り着いているのは努力の賜物だと思います。私自身も今までやってきた経験を踏まえ、何かプラスアルファをしてやっていきたいなと思い日々取り組んでいます」

――話に出た錦織選手ですが、ジュニア時代を知る米沢コーチから見て彼の特徴を教えていただけますでしょうか。

「彼(錦織)があそこまでいったのは先程の話にも出ましたが、頭の中が普通の子供ではないところがありました。当時はおとなしくてナショナルの合宿などでは『覇気がない!声を出せ!』と言われることもありましたが、彼の中では誰よりもテニス選手でした。態度や表情に出さないものの、それが彼の個性でありパーソナリティだったと思います。自分より強い選手の中に加わって練習し、その時は勝てなくても強くなろうという意欲がありました。負けても腐らず、やることをやる。それをいつもやり続けていくというのが彼のスタイルでした。気合いを入れて指導者が喜ぶようなパフォーマンスをして、その時だけ頑張るということは全くありませんでした。いつもそんなにエネルギーを出しているように見えない練習、要するにリラックスして力が入っていない状態でボールと接していた、コート上に居たという状態です」

「私のそれまでの経験からすると、その時だけは一生懸命やる選手もいますが続かない。ガッツがある選手は、テニスが終わった後に何を考えているかが大事だったりするわけです。次に繋げていくために進化をしようという。選手はある程度強くなると、自我が目覚めて進化しようというより勝とうとする意識の方が強いのが普通。それが普通の人間なので、そこから進化していくのが難しくなっていきます。『死ぬ気で頑張る』という選手よりぼちぼちのエネルギーを出しながら自分のやろうとしていることを磨いているという方が大事であると考えています」

「圭の場合は、ストロークは相手がストローカーの場合は完璧でよく拾い、強かった。ですが、相手が攻めてくる選手に対してのカウンター能力は、体も小さかったし当時は力もなかったので押されてしまうことが多かったんです。そこで『相手に攻められるより先に攻めよう』というのを課題にし、ある試合で(サーブ&ボレーではなく)100回ネットを取りに行くことをしていました。それにより早いタイミングで打てるようになり、攻撃的なストロークによって前で仕留めることを試合で身につけていきました。やり続けられるメンタリティ、その当時に錦織に勝っていた選手も長いスパンで見ると自分のスタイルの進化に取り組もうとしなかったことで勝てなくなっていきましたね。錦織のパーソナリティこそが彼のテニスを生んだ他の選手と違う大きな特徴ではないでしょうか」



――錦織選手の持つ天性のゲームセンスや技術などに特別性があるのではと予想していたので少し意外でした。

「いろんなことに時間はかけてきましたが、サーブの練習は毎日2時間ぐらいかけてやっていました。アメリカンフットボールや野球のボールを投げたり、左手で打ったりなどサーブに関連することは一日中やっていたようなイメージがあります。サーブをやった、というよりサーブが上手くなるためにいろんなことをやっていました」

――彼を指導したことを踏まえてジュニアに必要とされる技術や考えておく必要があることなどがあれば教えてください。

「体の小さな錦織が、海外の大きな選手とやり合う姿を何年か見てきたことで、日本人に必要なテニスというのを学んだという点は大きいと思います。例えば、相手の力を使ってライジングで打つことだったり、高い軌道で深く打って相手から攻められないようなボールを打つ、コートを広く使う、空中に浮いて来たボールをスイングボレーで打ち込んで攻めるとかテニス自体をいろいろ学ばせてもらいました」

「あとは『テニスで成功しよう!』と思っているのかです。今で言えば野球の大谷翔平選手のような違う次元の、もっともっとすごい努力というより、それをやり続けられることが象徴的なところです。それに近いものが錦織のパーソナリティだったように思います。『もっともっとストイックに!』というのが、彼にとってはストイックではなく当然のことなんですね。それをチームのみんなに伝えています」

――後編へ続く

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Photo by Tennis Classic