close

2023.09.12

選手情報

杉山愛・女子日本代表監督に聞く日本女子テニスの現状とこれから「100位以内に4〜5人を送り込むのが課しているミッション」

  • 著者をフォローする
  • 記事を保存

SHARE

  • 著者をフォローする
  • 記事を保存


――先日の穂積絵莉選手のダブルスでも「あそこからサーブ始めたらよかったのに」と杉山さんが観客席でつぶやいていました。選手同士でも気がつかないことがあるのでしょうか。
  
(穂積)絵莉は全豪オープンよりも数段レベルアップしているし、やってきたことがだいぶ試合で表現できるようになってきている手応えは本人も感じているでしょうし、私から見てもそう思うのでプロセスも合っていました。あとはちょっとしたこと。相手もタフなペア(Ka.プリスコバ/D.べキッチ組)なので、まだまだ実力をつけていかないといけないというところがいくつか見えてきて良かったと思います。

ただ自分の力を出し切れないで終わった、不完全で終わったということが一番悔いが残ります。そういった意味でも予選で負けた(シングルスの)5人も坂詰(選手)はやるべきことをやった。チャンスがあって「あと一本」の大きさはありましたけど、本人も悔いなしというかやることはできたという手応えはあったと思います。それが何よりも大きくてしかも本戦でも戦えるな、と結果を見ても思うんですよね(坂詰選手に勝ったスロバキアのカーヤ・ユバンは本戦3回戦まで進出)。そこは自信にできる材料になったし実際にいいレールに乗っていると思います。



杉山愛・女子日本代表監督が「全豪オープンよりも数段レベルアップしている」という穂積絵莉

――「いいレールに乗っている」とその世界を知っている杉山さんから仰っていただけると、選手としては嬉しいし有難いことだと思います。

私自身はチームにどっぷりということではなく、チームの一員ではありますが、ちょっと外側からプラスで俯瞰して観る部分があるので、いい時は良いし悪い時はここはどうなっているのか、ということにおいて選手と向き合い助言ができることも大きいと思います。

――いい時だけではなく修正点もまた同じ結果になり「抜け出せないループに入る」と。

そうですね。そこは心を鬼にしてハッキリ言っています。そう言える関係性が築けたのは大きいと思いますし、それをひとつずつクリアしていきました。全豪の時に(日比野)菜緒に話して向き合い方が直結したから今の結果だったかはわからないにしても、良い結果が出ているということはこれはもう成功の一つだと思います。

当時(今年の全豪)は100位以内をアウトして200位ぐらいにいってしまったこともあるので、その大きな原因というものをひとつ彼女に言ってみました。彼女自身もいろいろ考えて向き合ってきて答えを彼女なりに見つけたからこそ正しいレールに乗れたのだと思います。私はまだまだできると思っていてトップ50に入れるものを持っていると思うのでそのやり方次第だと考えています。ここからまた再チャレンジです。

――いつもテニスのツアーを観ていると厳しい場所だと思うのですが、これからプロを目指すという日本のジュニアの皆さんへメッセージをお願いします。

本当にチャレンジしがいのある世界だからこそ観てもらいたいと思い、挑戦してほしいと思います。なぜかというとワールドツアーなのでテニスを通していろんなところで競技できるということは、普段ではなかなか経験できないことをこうやって味わえる。挑戦し甲斐があると思いますし、選手として成功すればそれが仕事になります。賞金がどんどん上がっている中、グランドスラムで2週間を通して、7試合を勝ち抜き、優勝すれば2億、3億稼げる競技というのは女子ではなかなかないと思うのです。

今回のUSオープンでビリー・ジーン・キングさんが「EQUAL PRIZE MONEY」(男女の賞金額を同等にする取り組み)を声を大にしてスタートして50年が経った。それだけ男女同額の大会という50年の歴史のある競技はどこを見回してもないと思います。

そういう意味ではスポーツ界にとってもリーダーとしてトップをいく競技で今も恵まれている環境です。私自身が選手としてやっていた時よりも賞金は3、4倍です。私も久しぶりに現場で選手をサポートして、「(テニスは)やっぱりいいな」と思います。 

――質問が戻るようですが、なぜ日本女子の監督として引き受けられたのでしょうか。

自分の経験が一番生きるところだと思ったのが正直なところです。家族もいて子供もまだ小さいので、まだフルでツアーを回れるわけではないのですが、ある意味ベッタリ(選手に)ついて回る必要がない立場もいいかなと思いました。グランドスラムも全豪とUSオープンに来ましたけれど、その中でみえる部分が逆にあるかと。自分自身も経験して良い時ばかりではない辛い時、上手くいかない時もある。技術的なところはもちろん、戦術や体力、気持ち、ツアーの回り方、チーム力などいろんな要素がある中で何かが足を引っ張っていると結果というのは出ないものです。

いろんなことが上手くいっていて自分自身の状態が良くなって結果ってついてくるのです。1シーズン10ヵ月のツアーの中で海外の選手に対して、自分は何を武器として世界と戦うのかという「強み」の発見だったり、自分のカラー、自分の主軸となるものをしっかりと持って戦えたら、私自身は大丈夫だと思っているんです。

例えば、伊達さんのライジングや私なら元気とエネルギー、コツコツとやる力、あとは頭を使うテニスだったりします。技術的なところだとバックハンドとフットワークだったり「自分の強みは何なのか」というところを把握して、そこに磨きをかけていく。(技術的な)穴はもちろん攻められてしまうので埋めていくことは必要ですけれど、自分の「トータル」で何が強みなのか。信じる力だったり、頑張る力だったりも大事なところです。

――来年のUSオープンまでの目標があれば教えてください。

100位以内に4〜5人送り込むというのが自分の中で初めに課しているミッションではあるので、今回男子は4人、(錦織)圭がいれば5人ですけど、女子も5人ぐらいはこの1、2年の内に送り込んでいきたいです。

――日本女子テニスの希望に溢れる楽しい話題をありがとうございました。

★杉山愛
グランドスラムでは、シングルスで全豪オープンとウィンブルドンでベスト8、ダブルスで全仏オープン、ウィンブルドン、USオープンで優勝という戦績を残し、ツアー通算シングルスで6勝、ダブルスで38勝を挙げている。自己最高ランキングはシングルスが8位、ダブルスが1位。1994年ウィンブルドンから2009年のUSオープンまで当時のギネス記録となる62大会連続でシングルス本戦に出場。今年から女子国別対抗戦ビリー・ジーン・キング・カップの日本代表監督に就任した。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録