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2023.09.28

選手情報

中山芳徳・ナショナルジュニア女子ヘッドコーチ、トップ50の壁を突き破るためには「うまくいかないことにどう向き合い、自分の伸びしろを見い出せるか」

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――100位、50位の壁、いろんな壁を越えていくのに技術的なことも含めて「鉄則」みたいなものがあれば教えてください。

自分がキーワードに上げたのが「自分がうまくいかないことにどう向き合えるか」です。試合中のミス、トーナメントでの勝者は1人しかいないので負けということもそう。WTAランク50位でも勝率は52%なんです。フェデラーとかナダルのように80%を越えることはツアーではあり得ないこと。常にうまくいかないことに向き合えるかどうか、そこに自分の伸びしろを見い出せるかどうかですね。

みんな自分が上手くいかないことにガッカリしてしまうのですが、言い方を変えると自分のテニスが上手くいくかどうかだけにフォーカスして勝てるというのは(大坂)なおみなど相手をオーバーパワーできる人だけ。自分のテニスにだけフォーカス=相手を超えられるんです。

それに対して他の日本人の場合は、「相手のいいところ」を消して、相手の得意なことをさせないことが求められます。ヨーロッパやアメリカの選手は高い競争の中にいて、それが見えているのでテニスが「主観的」ではない。主観的というのは「私が何ができればいい」「これができればいい」ということですが、相手にそのテニスを越えられると何もできない。ヨーロッパやアメリカの選手は、自分を越えていく人をどう倒していくかということをやっているのでしぶといんです。主観的な考えだけでテニスができ、勝てるのは限られた人達だけです。

日本選手たちは海外に行き、高い競争の中にいると「コートセンス」というのが磨かれていきます。今回、世界ランクトップ10に入っているジュニアは、海外での大会をベースにプレーしています。常に海外の選手と、コートの反対側に「外国人の景色」があるわけです。そこに触れているとストレスにも慣れてきます。ですが日本だけで戦い、たまにしか外国勢の景色やボールを受けないとなると、やはり海外を中心に活動している子が勝っているというのもあたりまえのことにもなってきています。厳しい言い方をすると高い競争、環境の中にいるっていることは大切。他のスポーツでもそうですが海外勢が中心になってきていて、厳しい環境の中で衣食住を共にし這い上がって来る。将来、世界のトップになるための「ものさしを変える」ことも大事だと思います。

――そういう意味では、日本国内だけでも男子とヒッティングなどをすることで海外勢のテニスの免疫をつけることはできるのではないでしょうか。

パフォーマンスを上げるために日本でもできる、例えば環境を揃えて、男子を使ってとか、日本の国内の国際トーナメントを多くしてなどですね。「パフォーマンス」だけを考えるとできると思うのですが、お話ししたように人間的に「ネガティブなこととどう向き合うか」とか「自分の考える能力」という工夫が必要になり、日本にいるとどうしても揃えてもらえてしまう。

うまくいかないことに対して向き合って、知恵を覚えて、自分の問題解決能力というものが上がるかどうかが重要なポイントになると思います。それ(問題解決能力)は普段の生活の中からも生まれ、それは大事な場面、プレッシャーのかかったところで生きてくるでしょう。日本の子たちをと総称していう必要はないのですが、負けたり、上手くいかないことがあると自分の「アイデンティティー」までも疑うんです。一方、海外の子たちは負けても「自分自身」は崩れたりはしない。人格を否定されたわけでもなく、自分は自分でただゲームに負けただけなんだと。日本の子たちは自分が自分ではなく、評価されてないという思考に陥いってしまう。

だからこそ、「勝ってると自信がつく」と勘違いしているところがあります。私は上手くいかないところから這い上がった時に、自信がつくものと考えているので、選手自身が嫌なことと向き合えるかは大事。トップに行くためにあえてストレスを与えていくことも必要です。

ハードワークというのはただ長い時間「しごかれる」のではなく、いかに自分が競技と向き合って得た自信が大事だと思います。日本人が元々、持っている緻密さや勤勉さやデータを使う、科学的なトレーニングをするなど日本人が良いと思っているものはトップの選手たちも持っている要素ですが、日本人の平均点は高いと思います。

――日本人が勝つためには、ストレスがかかった時の対応の仕方が大事になることがわかりました。

日本に居ると与えられるストレスは想像がつく。海外では競争のハードルは高く、文化や習慣も違う。欲しいものがすぐに手に入らないから工夫する、一つやることに時間をかけないといけない。いろんなことが揃ってないから自分でやらなければいけなくなる。上手くいかないから自分で考えて知恵を出し、諦めないでやってみるとかそういうことって海外に出て行かないと(不利な条件が)揃わない。

揃ってないとできないと言ってしまう人、環境は与えられるものだと思っている人は勝てないと思います。良い環境は「自分で作り出す」という視点は、とても大切です。

レジャーのテニスだとスポーツを学んで楽しく続けることが大事で、根本は変わらないんですが、それが一旦競争の中に入ると生き残るというインスティンク(本能)が必要になってくるので、それを磨くには海外にいた方がというのが自分の考え方です。


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写真=田沼武男 Photos by Takeo Tanuma