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2023.09.28

選手情報

中山芳徳・ナショナルジュニア女子ヘッドコーチ、トップ50の壁を突き破るためには「うまくいかないことにどう向き合い、自分の伸びしろを見い出せるか」

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――海外に身を置くことで自分の「自信」になっていく、ということになりますか。

正直に言うと、いいコーチング、データを活用する緻密さとかはなければ難しいでしょう。12〜13歳でみんな技術があり、「穴」がない。ダブルフォルトで崩れるなんてこともないんです。その人をハイパフォーマンスに持っていくのに、知識がなかったとかそれがもう許されない時代になってきている。その(基本的なスキル)上に人と差をつけるために「何を持ちますか?」というのを見い出すものはセンスから生まれて来るものだと思います。

みんなテニスが上手だったら勝てると思っているけど、全員上手なんです。もう(今の時代)下手くそがいないんです。ボールの後ろに入ったらアンフォーストエラーをしない、その中でゲーム性でどう差をつけられるかということになります。

――ひと昔ならフォアハンドだけが飛び抜けていいけど…というプレーヤもいました。確かに見ていても大きな穴はないように思います。

相手にストレスを与えて、相手が、(プレーの)枠以外のことをしないといけないようにした結果、はじめて簡単なミスに見えるポイントはあります。すると、こんな強い選手でも簡単にミスしたり、こういう崩れ方をまだするのか?となるんです。つまり、勝手に相手が崩れることを期待できない時代です。そういうことも含め、高いレベルにいることは大事なことだと思います。その基準を変えるということですね。

――グランドスラムがゴールではなく、この先に選手を送ることを中山ヘッドコーチもお考えだと思います。

ストレスなくいい形で出してあげようとすると、逆に伸びしろがなくなってくる。例えば今、彼女たちが持っているベストのパフォーマンスが崩れないように考えると、周りが色々揃えてあげることになります。それイコール彼女たちが考えなくて済むようになるということです。ただ、それが崩れないようにパフォーマンスが出せるようにとかやっていくとステージが上がってきた時に、自らを崩してでも何か新たなものを得ようとする作業ができなくなります。

自分が変わるために、今うまくいかないこととか新しいことを取り入れる「変化」ということが怖くなってくる。「変化」が「進化」のはずなのですが、安定したいと言っているとそれは「停滞」になります。
 
――耳が痛いお話しですね。

あまりジュニア期の進化、変化の段階で揃えてあげ過ぎるとプロになった時にすごいストレスを受けることになります。
   
――ストレスをあげる、かけるということは出場する試合をタフなところにする、もしくは練習しながら培うものでしょうか。

両方だと思います。うまく行かないことに対して「もがく」。もがくということは、いろんなことにトライアンドエラーをするのも「もがく」だと思います。ですが、「素直でいい子だね」とコーチのいうことを聞いて言われたことをできるだけでは、ある程度伸びるのですが、それ以上がなくなってしまいコーチの想像を超えないんです。素直でこちらの言ったことをやりなさいというのは良いことですが、自分で考えて「ちょっとこうやってみたらどうなんだ」ということがないんです。

それができないと、(選手がコーチへの)依存度が高くなりコーチに答えを聞くようになる。そして答えを教えてくれる人が、良いコーチになります。それでは選手はコーチが思うところにまでしか行かない。優れた選手たちというのは、自分でいろんなものをピックして自分で自分のテニスを作り上げていくので、一緒に遠征をしていてこちらの想像を超えることがあります。自分の想像を超えるという瞬間があるということは、自分で物を考えているという証拠で、そこが(選手の)ポテンシャルだと思っています。


2021年から拠点をアメリカ・フロリダのIMGアカデミーに移した石井さやか

――選手とコーチがお互いに依存し合うような光景もあるように思います。コーチとの信頼関係はもちろんあるけれど、選手は自分を持ってコーチと対等に話し合う関係が良いということでしょうか。

そういう人格をあえて作ろうと持っていくというのがコーチングだと思っています。それを「俺の言うことをちゃんと聞いておけば勝ったのに!」とかではなくて。

――コーチのエゴが思いっきり入っていそうですね。

そうなってしまうと自分達の想像を超えていくことはありません。もちろん世界基準のフィジカル、技術の精度も必要、だからこそ正しいメカニズムでボールを打つことはあたりまえで、そこは譲らず、ブレずにしっかり積み上げる。足を使う、正しい打点で取るとかみなさんが思っているあたりまえのことを続けていきながらですね。

――あえて奇をてらう必要は必ずしもないと。

例えばショットの精度が荒く、それでも頑固に打ち続けた後に本人に気づきがあるかもしれません。それをコーチが「勝ちたいならコートに入れておけ」ということになると普通の選手になってしまいます。「奇」で打つところも生まれないということは、西岡良仁(ミキハウス/男子世界ランク44位)も生まれないということになる。人と差をつけたい、人と違うものを持ちたいと思っているかですね。

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写真=田沼武男 Photos by Takeo Tanuma